やはり日本はバランスが……新型インフルエンザにみる危機管理:松田雅央の時事日想(2/2 ページ)
新型インフルエンザの新たな感染者の報告は続いているが、だいぶ落ち着いてきたように思える。日本とドイツの報道を比べてみると、感染者の大小よりも根本的なところに差があるようだ。それは……?
乗り降り自由なドイツのトラム
では、乗車券のチェックはどうするのか。これは不定期に乗車してくる検札係員が行い、乗車券を持っていない乗客は罰金を支払わなければならない。列車・地下鉄のシステムも基本的に同じで、日本では当たり前の改札口というものがドイツの駅には存在しない。
ドイツに来た日本人の頭にまずひらめくのは「これなら無賃乗車できる!」という良からぬ考え。かくいう筆者も最初はそう思ったものだが、無賃乗車は「罰金40ユーロ」と「後味の悪さ」のリスクを伴う。基本料金(2ユーロ)は決して安くないが、1カ月券が割安に設定されているためこれを利用する乗客が多い。
そうは言っても無賃乗車は必ず存在し、筆者の住むカールスルーエ地域の公共交通を管轄するカールスルーエ交通連盟によれば2〜3%の乗客が無賃乗車しているそうだ。これに対し、もし検札係員を増員すれば無賃乗車率は下がるが当然人件費は増加する。ここで重要なのは「費用対効果のバランス」であり、検札係員の人数は経験的に最も利益の大きいところで決められることになる。「無賃乗車はゼロでなければならない」という建前にはこだわらず、停車時間の短縮や最大利益といった実益を優先しているのだ。
新型インフルエンザに対する日本の対応がトータルでプラスなのかマイナスなのかは誰にも分からないが、インフルエンザに限らず社会的危機が訪れた際には利益・不利益のバランスをもっと冷静に見極めてほしい。たぶん、こういった危機管理は多数の国と国境を接し、外国で起きた問題がダイレクトに社会を襲うドイツのような国の方が慣れている。危機管理の損得勘定が上手いのだろう。
日本の政府とメディアには、大きな風呂敷を広げ、いたずらに不安感を助長するのではなく、リスクも説明しながら最善と思われる道を国民に示し納得させることをぜひ求めたい。
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