安いワインは手に入るが……割高な「ビオワイン」を好む理由:松田雅央の時事日想(2/2 ページ)
ワインの産地として有名なドイツ・ファルツ地方。高級ワインの産地ではないため知名度こそ低いが、「ワイン醸造農家」が多い。筆者の松田氏はそこでワインを試飲し、あることが見えてきたという。それは……?
ビオワイン
さて、友人がゼーバーのワインを好むのには特別の理由がある。ワインがおいしいのはもちろんだが、ゼーバーはビオ農業(有機農業)でワインを栽培し「ビオワイン」を醸造している。農薬や化学肥料を一切使わず栽培されるブドウとそのワインは何より健康的だ。
この時事日想でもレポートしたようにビオ農産物はジワジワと市場を拡大しているが、爆発的増加というわけではない(関連記事)。ブドウ農家も同様で、残念ながら手間がかかるビオブドウの栽培は敬遠されがちだ。また近年の通常農業はよりエコロジカルな方向へ進んでおり生産者と消費者には「ビオワインでなくとも十分に安全」という認識が強い。つまり、ブドウ農家はあえてビオ農業に転換するメリットを見い出しにくい。
実は通常のワインもビオワインも味に差はなく、プロでも味の違いを見分けることはできないという。それでもビオ農家は環境保全への関心と、自然や人間に対する強い慈しみを持っており、その気持ちに共感する消費者がビオワインに集まってくる。ワイン醸造農家と消費者を結ぶ信頼感こそがビオワインの命である。
ワインは観光資源
ワイン醸造農家ゼーバーのある「ザンクト・マーティン村」はドイツ・ワイン街道沿いにあり多くの観光客が訪れる。ワインを核とする観光資源は多岐に渡っており、周辺に広がる広大なワイン畑や丘陵地帯のハイキング・サイクリング、歴史の薫る古い街並み、地方料理、民芸品も含まれる。ワインの試飲とまとめ買いを合わせれば、十分1日の観光を楽しむことができる。
昔からワイン産地は豊かな地域であり、中世には税金としてワインが納められていた時代もある。今、ドイツワインは南アフリカや南米産の安いワインとの競争にさらされているが、ワインとそれを取り巻く自然環境や地域文化は貴重な観光資源と言え「ワインツーリズム」とも呼ばれている。観光とエコロジーをうまく融合させたドイツのワイン産地には農村地域活性化に成功しているところが多い。
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