遠藤一平監督が語る、自主映画『DT』の“裏物語”:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
1本の映画制作のウラには、もう1本の映画ができるほどの“制作秘話”がある。「自分たちがやりたい表現を撮ろう」から始まった自主映画『DT』。その制作秘話をお伝えする。
感性も考える力も落ちている
「なぜそこまで自主制作にこだわるのか?」と尋ねると、遠藤監督は「映画を創る人間のEQ(心の知能指数)が減って、感性が落ちているからです」と話す。
「アイドルを使って撮影すると、そこそこ演技はできる。ところが撮影が終わると飲み会となって、まるで合コンのような場になる。芸能人かぶれの自己満足だね。タレントであって俳優じゃない。そこに映画会社の人が寄ってきて、『じゃあ、次の映画出るかい?』『わぁ、出る、出る』みたいな会話でキャストが決まる」
遠藤監督の言葉に絶句する私。
「現場でも感性が落ちていてね。若手の役者は演技指導をすると、口では『分かった』と言う。でもやらせると、伝わっていないことが分かる。さすがにベテランの役者は『聞いてねえな』と思っていても、実は分かっていて、考えて芝居をしているけど。若い役者だけじゃなくて、監督だってそう。絵コンテ(撮影シーンの構想図)さえ書けない監督だっている。考える力や想像力が落ちているんだよね。対人関係を避けてPCばかり見ているせいじゃないかと思う」
好きなことを愚直にやれよ
「結局、今はたくさん情報がありすぎるのがまずい。切り捨てて切り捨てて、個人の価値を突き詰めるしかない。ある会社の社長が言ってたんだけど、新しいことをする時『神様と会話』する。『これをやらせてもらうために、●●を止めますからやらせてください』と。モノ断ちだよね。そのくらいじゃないとダメ。いつまでに何をして、どんな自分になるなんて“期限付きの生き方”でいいのか。保険ばかり探していいのか。今やれることをやればいいんだよ」
語り続ける監督の隣で、『DT』のCG制作を担当する田澤憲さんがうなずいた。彼も本業は別にあるが、監督のこんな熱さにホレて制作に携わっているのだ。
「情報ばかり追うよりもね、ホンダやソニー、パナソニックの創業者の自伝を読めばいい。みんな自分を信じるしかなかったんだから。本当に好きなことを愚直にやれよと思う」と、遠藤監督の話は広がる。
予定調和に感動調和するようじゃ……
インタビューは映画の話からどんどん離れていってしまったが、遠藤監督の熱いものが伝わってきた。『DT』には遠藤監督の愚直さ、若い世代へのメッセージが詰まっている。監督はこうも言う。
「ヒットした要素を当てはめるなんて生き方、つまらないよ」
多くの日本人にとっての映画とは「過去に観たことがあるのもの」。つまり「泣く」「笑う」「手に汗にぎる」の3要素で予定調和された物語に、観客は“感動調和”する。だからヒットした映画のプロット(栄光、挫折、転機、再び栄光)をかっぱらえば一丁上がり。観客も物語に裏切られることなく安心して見ることできる。
だが、名画『七人の侍』はどうだったか。死ぬわけがないはずの主人公(三船敏郎)が、最後にあっけなく死ぬ。『パルプフィクション』のジョン・トラボルタも(トイレで恥ずかしい姿で)あっけなく死んだ。黒澤明もクエンティン・タランティーノも、人生も映画も予定調和では面白くないことを知っていたのだ。
人間は死という時限爆弾を背負って生きている。それなら、その瞬間まで爆発的な生きかたをしてみよう。私にとってのDTとは、遠藤監督の熱いDirector's Talkとなった。
DT予告編 春 完全版(HD)
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