そのコンセプトは伝わるか!? スープカフェの試練:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
ふとコンビニで見かけたフタつきのカップスープ。何のためのフタなのか。ニーズをとらえていても、顧客にコンセプトが伝わらなければ意味がない?
そのフタ、何のため?
発売は2009年11月なので少し前になるが、アサヒフードアンドヘルスケアの「スープカフェ」というカップスープ商品がある。ラインアップはコーンポタージュ、ホットショコラ、 クラムチャウダーの3種。商品の特徴は「フタが付いていること」。そう、スタバやタリーズ、その他カフェのテイクアウトでおなじみの、フタの一部が開いてそこから飲むというスタイルだ。
筆者だけなのかもしれないが、この商品をコンビニの店頭などで見ても、全く響かなかった。「フタ付きだと何がうれしいの? “カフェ”ってオシャレッぽいってこと?」。さらに、「スープなのにココアがラインアップされているってどういうこと?」と理解不能。以来、店頭で見かけても手に取ることなく、ほとんど気にもとめない存在になっていた。
ところが、店頭に導入されたPOPを見ると、この商品のコンセプトが分かってきた。「フタ付きだから、片手で飲める」。まだ伝わらない。POPの側面に「デスクで便利、片手で飲める!」と書いてある。さらにPOP上部に書いてあるコピーも読む。「フタ付きだから、冷めにくく、においが広がらない」。
やっと分かった。この商品はオフィスのデスクで、昼食時以外の小腹が空いた時、「コーヒーの代替」として、仕事の片手間に飲むスープなのだ。コーヒーを飲みすぎておなかがじゃぶじゃぶにならないし、カフェインで空きっ腹の胃が痛む事もない。また、人から見られても、いかにも「何か食べてます!」という風情ではなく、飲みものを飲んでいるだけのような様子で食べられる。
小腹を満たす需要なら、ココアのラインアップも納得がいく。コーヒーはおなかはふくれないが、ココアはおなかがふくれる。「おなかすいたけど、塩味じゃないんだな〜」という時に、ココアはミルクも入っていて、チョコも入っていて、小腹が満たされる。
フタの重要性は、さらに用いられるタイミングが問題だ。昼食時なら昨今デスクで弁当を広げる人も多いため、においを気にする必要はない。しかし、ほかの人が仕事をしている時に食事っぽいニオイがしてきたらたまらない。それが防げるのだ。
今のタイミングでPOPを投入し、商品コンセプトの浸透を図ったのは、季節的な要因もあるのだろう。厳冬の朝、ぬくぬく毛布の誘惑に負けて寝坊した始業時間、おかずの匂いをさせずに暖かくおなかを満たす事ができたなら、とても幸せだ。そんな利用シーンを想像させる。
コンセプトを整理するためには、5W1H的な考え方が意外とわかりやすい。スープカフェの場合は以下のような感じになるだろう。
- Who(誰が)=オフィスワーカーが
- When(いつ)=ランチ以外の小腹が空いた時に
- where(どこで)=自分の席で
- How(どのように用いる)=仕事の片手間に、片手で持ってすする
- Benefit(どんないいことがあるのか)=人目やニオイの拡散を気にすることなく小腹が満たせる
- Why(なぜ、その便益が享受できるのか)=フタ付きの片手で持てるカップサイズのスープだから
以上がPOPを見て解釈できた、「スープカフェ」のコンセプトだ。
確かにニーズはありそうだ。だがコンセプトがいまいち伝わっていない気がする。POPだけでは弱い。さらにヒットを狙うのであれば、「どんな時に、どんな風に食べるといいよ!」と明示できれば良いのではないか。もしかすると、「スープカフェ」というネーミングも、利用シーンを想起させるものに変更した方が良いかもしれない。例えば「オフィスDEスープ」とか。
こんな風に、発想も広がる。
“マーケティング観察眼”を働かせて、「屁理屈でもいいから理屈をこねてみる」。そんな練習を繰り返すと、いつか、いつもと違った景色が見えてくる。何気ない街歩きでも、学ぶことが出来るのだ。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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