「ふっかけた方が得」の交渉術に負けない方法(2/2 ページ)
アンカリング効果の力を踏まえると、売り手側が価格交渉を有利に進めたければ「ふっかけた方が得」。それでは、買い手側としては、そんな売り手側の策略を避けるためにどうすればいいのだろうか。
住宅販売でのアンカリング効果
また、これは倫理的にどうかなと思いますが、新築の住宅を売り出す際、最初に短期間だけ、あえて高い価格を設定して売り出し、顧客の反応を見ながら徐々に下げていくという住宅販売を採用するところがあります。
例えば、立地や物件内容を考えると、明らかに割高な1億円といった価格で売り出すのです。ここでは、1億円が基準点となり、値下げした場合には「3000万円値下げして7000万円で販売」などとチラシで訴求できます。
すると、お客さんは「その物件の妥当な価格はいくらか」という判断をする以前に、「元値より3割も安くなってお得だな」という印象を受け、購買意欲が刺激されます。当初の1億円で売れることはないにしても、売り手としては利益の大きい価格で売れる可能性が高くなるというわけです。
米国の不動産王、ドナルド・トランプは以前、次のような告白をしたことがあるそうです。
「部下がやってきて、(建築見積)価格は7500万ドルになりそうですという。そこで客には『1億2500万ドルかかりますよ』と言っておいて、結局は1億ドルで建ててやるわけです。要するにずるいことをやってきたわけです。でも相手は、いい仕事をしてくれたと思っている」
アンカリング効果とは、要するに比較可能な「基準点」を示すことで、相対的な「差」が際立って見える効果です。ですから、価格以外にも使えます。例えば、自分がやせているように見せたければ、自分より太めの友人と歩くとか(笑)。
アンカリング効果は、価格において最も顕著に見られることが行動経済学では判明しているので、買い手側は本当に要注意です。一方、商売(売り手)としては、倫理的な問題をクリアしつつ、うまく活用したいところです。(松尾順)
参考文献
『プライスレス 必ず得する行動経済学の法則』(ウィリアム・バウンドストーン著、松浦俊輔、小野木明恵訳、青土社)
『経済は感情で動く―― はじめての行動経済学』(マッテオ・モッテルリーニ著、泉典子訳、紀伊國屋書店)
『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房)
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