東京〜大阪間500円!? 平成エンタープライズ社の挑戦:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
高速料金値下げや無料化など市場環境も変化する中、ますます競争が激化している高速バス市場。激しい競争の裏には、企業の試行錯誤がある。東京〜大阪間500円という破格のキャンペーンを打ち出した平成エンタープライズ社の狙いはいかに。
東京〜大阪間ワンコインの狙い
その東京〜大阪を「ワンコイン・500円」で提供するのが平成エンタープライズ社だ。仕掛けは、Webサイトのオフィシャル予約ページで突然発表される「10席限定シート」であること。ゲンダイネットの記事「東京〜大阪間 片道500円!話題沸騰の激安高速バス」には、同社のコメントが掲載されている。「日にちや通常シートの予約状況にもよりますが、基本的に毎日、500円で乗車できるチャンスはあります。また、当日分を急きょ販売したり、2カ月先の予約発売を開始するケースもあるので、こまめにサイトをチェックしてください」
バスのシートタイプは選べない。恐らくは全体の予約状況を見て、どのタイプをキャンペーン対象の限定シートとして10席確保・公開するのかを調整しているのだろう。「なんだ、キャンペーンじゃん!」とはいえ、予約が確保できれば500円で大阪まで行けるのだ。最安値の7分の1。新幹線の28分の1! である。
頻繁に該当路線を利用するが、乗り心地重視で車種やシートタイプをご指名するお得意さまはターゲットではない。まずは比較サイトを探してみる人。そんな人もうまくすれば500円の席を確保することができるとすれば、比較サイトの前にちょいっと、平成エンタープライズのオフィシャル予約サイトをのぞいてみるだろう。
同社はこのほかにも直販サイトを見てもらうために、2007年5月から「カラーコード」と呼ばれる二次元コードをバスの車体や座席の背もたれの後ろに入れている。2007年6月10日付日経MJの記事「平成エンタープライズ、ツアーバス、携帯で予約、復路の需要開拓」によると、行きの時間に帰りの分も購入してもらう狙いで、精密なデータが必要なQRコードと違い暗くて揺れる車内でも携帯で撮影できるという。
サイトを見てもらう効用はもう1つある。同社は、例えば激戦区の東京駅八重洲口では駅に横付けする停車場を確保することはできていない。駅からほんの2分ほどの場所だが、離れたところに乗り場がある。バスの車体・ロゴなども認知されていない。ましてや、どこから乗ればいいのかも分からない。それを知らしめることができるのである。
また、低反発素材のシートが採用されていたり、隣席とはレースのカーテンで仕切ることが出来るといった、特徴的なサービスも売り込める。
AIDMAがしっかり完成している。
- Attention(認知)=こんなバス会社あるんだ
- Interest(興味)=面白いキャンペーンやってるな
- Desire(欲求)=500円は安い! 通常価格も結構安いな
- Memory(記憶)=とりあえずブックマーク
- Action(行動)=予約を入れよう!
やがて、「いつも最安値じゃないけど、ここもかなり安いんじゃないか?」と思う。何度も500円席を探してサイトをのぞきに来ているうちに「まぁ、ここでもいいっか!」と思う人も出てくる。利用してみれば、なかなか快適。リピートする。囲い込みである。
実は関連商品のクロスセリングもやっている。出張手当を割安にしようと利用した顧客に、「プライベートの旅行でもどうですか?」とWebサイトではバス利用の格安旅行などもしっかりと訴求している。
激しい競争の中、どうやって消費者を振り向かせるかはあらゆる企業が腐心しているところだ。しかし、安易に「キャンペーン」という奇策に出ても、それ以降の設計ができていなければ、一過性に終わってしまう。
競合激化で価格低下、サービス向上と各社の様々な試行錯誤が続く高速バス市場。出張費も削られ、プライベートの財布のひもも固くなる一方の今日このごろだ。市場調査のつもりで、高速バスを利用して出張、旅行をしてみたらどうか。その時各社がいかに顧客をつかもうとしているか、じっくりと肌で感じ、観察してみてほしい。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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