つけて、しぼって、すくう――“わたしの料理”を作れる調味料パケットの魅力:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
ハインツが開発した「つけるのも、絞るのも、1つでできる」トマトケチャップパケット。筆者は調味料パケットの魅力を考えるうち、単なるコストメリットなどからあるのではなく、料理の価値を上げる要素にもなっていると気付いた。
パケット調味料とは“儀式”である
パケット快感の原点、それは私たちの調味料との対話にある。
かつてケチャップは、瓶から振り出してかけた。少なくなると瓶を逆さにしたり、細いスプーンで瓶底をすくった。「もったいないから」だけでなく、スプーンをカチカチいわせて瓶のくぼみ部の残りをすくい取ると「食べ切った」という征服感に包まれるのだ。ビニール容器になって、そのチャレンジと征服感が失われたのは残念だが、ジャムなどでは今でも同じことをしている。瓶底や口部のくぼみから残りをすくうのは、清々しいモーメントであり厳かな儀式である。
食パンにピーナッツクリームをスプーンでつけるのも儀式である。パンの耳の固さと角の形状を利用して、スプーンの凹部についたクリームをこそげ落とす。一発でこそげ落とせた時の爽快感を何と表現すればいいのか。
ホテルの朝食で使うバターのパケット。バターナイフを使うのが普通だが、時にはパケットにパンの小片を入れて、ぐいっとこそげとる。マナー違反かもしれないが、パンとバターとパケット容器を無意識に一体化させるうちに、「太古の人類はこうして手で飲食していたなあ」と、私たちは原始メモリーを呼び戻せるのだ。
調味料をかける、つける、塗る体験。それは「おいしくなあれ」と祈りを込めること。パケット調味料とは“わたしの料理作り”なのである。自分が王様になって最後の味を決める自由な瞬間なのである。人の幸せはこんな小さな部分に宿るものだ。人のナマのしぐさに注目すれば、商品差別化の要素はまだまだたくさん転がっている。
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