CoCo壱番屋に学ぶ、制約条件の中での生き残り方:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
日本の国民食である「カレーライス」。そのナンバー1チェーンといえば誰もが知る「ココイチ」こと、CoCo壱番屋である。この10年間で、店舗数は約600店から1200店と倍増。売り上げは約400億円から約700億円と1.75倍の成長を遂げている。しかし、そんなココイチの成長にも黄色信号がともりはじめた。その生き残りの秘策は成功するのか?
ココイチで地域限定メニューって?
ところで、店限定メニューといえば、青息吐息の外食産業において、不景気を追い風に気を吐いている「餃子の王将」が思い出される。売上高29カ月連続で前年同期を上回る好調ぶり。セントラルキッチンを持ちながら、看板メニューの餃子は全店で手作りするほか、各店舗がその地域の客層に合わせて工夫を重ねて展開するオリジナルメニューの数々が餃子の王将のウリだ。確かに不景気の中、割安なメニューが並ぶ同店に多くの人が行列するのは確かだが、人をひきつけている魅力は安さだけではない。チェーン店としてだけでなく、“街の中華料理屋”としても楽しめるのだ。
オリジナルメニューで魅力を演出。これは言うは易く行うは難しである。特に、カレー店のココイチにとってはだ。中華なら豊富な食材や調理方法がある。しかし、ココイチにはカレーしかないのである。しかも、ココイチのカレーは極めてスタンダード。当たり前なメニューを温かく提供することが同社のポリシーであり、注文を受けてから小鍋で温めることにそれが表れている。しかし、特別な技は持っていない。厨房の調理器具や食材も限られている。その中で「ストアレベルマーケティング」を実現することは、いかに知恵を絞らねばならないか想像に難くない。
東海ウォーカーの記事「カレーだけじゃない! 朝粥にパンもそろうココイチの“店限定メニュー」がメニューを伝えている。
朝粥や白玉ぜんざいパンも売る「名駅サンロード店」の「粥」は「おや?」と思うかもしれない。実は壱番屋には2008年に1店舗だけオープンさせた新業態店「粥茶寮 kassai」(かゆさりょう かっさい)」が同じ名古屋にある。そのノウハウを転用しているのだろう。同店ではカレーパンをはじめ、テイクアウトメニューを揃えているが、店舗外の地下街通路側に面して設置されるレジを配置するなど、人通りの多い地下街という地の利もしっかり生かしている。
他店も負けてはいない。岐阜県限定のアツアツの鉄板にルーをかける「鶏(けい)ちゃんカレー」が人気だというが、新たに導入しているのは食器の鉄板だけで、あとは工夫の産物だ。
同じカレーパンもバリエーションに変化を持たせている店舗もある(「ココイチ矢場町店限定「ココ矢バーガー」、人気沸騰で販売期間延長へ」(サカエ経済新聞))。
元々は従業員用の「賄い」として開発したものだというが、「トンテキハンバーグ」のタレに付けたトッピング用のハンバーグとレタス、マヨネーズを、ほどよく焼いた「焼きカレーパン」を半分に切ったものにはさみ、提供しているという。これもまた、創意工夫のたまものだ。
同社のホームページには、「三島コロッケカレー」(静岡県の三島萩店)や「下仁田ネギ鍋焼きカレーうどん」(前橋市の前橋荒牧店)、「黒はんぺんカレー」(静岡県の豊田町店)などご当地の名産やB級グルメとのコラボ商品もある(いずれも期間限定のようだが)。同社は産経新聞のインタビューに対し、「1000店舗に1000通りのメニューがあってよいと考えている」と語っており、今後もメニューは増えていきそうだ。
ビジネスに制約条件はつきものだ。また経済情勢が厳しい昨今、ヒト、モノ、カネのリソースが充分でないことも多いだろう。しかし、苦しいときほどほかとの差別化をして成長を図るチャンスでもある。CoCo壱番屋の「ストアレベルマーケティング」の涙ぐましい努力から学ぶものは多いはずだ。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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