食べるラー油戦争勃発! 桃屋VS. エスビー食品:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
調味料だったラー油が、いま熱い。桃屋が2009年に発売した「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が大人気を呼び、このほどエスビー食品も参入。“食べるラー油”という新境地で、新たな戦いが始まった。
エスビー食品の猛追
「ぶっかけ!おかずラー油チョイ辛」の戦略を見てみよう。
まず、Product(製品)は、フライドガーリックやフライドオニオンが用いられているのは「桃ラー」と同様だが、差別化要素としてアーモンドが入っているのが特色(同)という。
Price(価格)は1つの勝負所のようだ。桃屋のラー油が110グラム400円前後で売られているのに対し、エスビーのラー油は同量で希望小売価格330円(同)だという。
ここまでで考えると、エスビーは桃屋に対して後発なので製品に少し特徴を持たせて価格を2割弱安く設定して対抗するように見えるが、もう少し考えると真の狙いが見えてくる。
3C分析的にCompetitor(競合)である桃屋と、Company(自社)エスビー食品を見比べてみよう。資本金こそ桃屋約19億円、エスビー約17億円だが、エスビーは上場会社である。売上高は桃屋約137億円、エスビー約1132億円、従業員数は桃屋308人、エスビー1179人と規模が大きく違う。
規模の違いはどこに出るか。例えば、エスビーには東京・板橋区に「スパイスセンター」施設があり、研究開発に注力している。「桃ラー」の大ヒットを見てからの開発であったのかは定かではないが、短期間での製品開発力が高いのは確かだろう。また、ラインを調整すれば、大量生産する力もある。
モノ作りだけではない。幅広い製品ラインアップを持っており、チャネルへ働きかける力も強い。記事にも「流通側からも弊社への期待があったので、今回新たに発売することになりました」と広報担当者のコメントがある。
3CのCustomer(顧客)はエスビーにとってはPlace(チャネル・販路)と、そこで購入する消費者の両方を意味するが、まずチャネルからの要請もあり、大量に商品を店頭に供給して棚を確保することが可能である。そして、「桃ラー」の品薄で買えない消費者がいることから、商品を手に取らせることも可能であろう。
Promotion(コミュニケーション)はどうか。「桃ラー」はロックバンド・怒髪天の増子直純を起用したCMで注目を集め、それもヒットの大きな要因になった。しかし、店頭で品薄となって、「CMを見ても買えない!」という状況を回避するために自粛をしている。現在、増産が追いついてきたようだが、まだ、チャネルによってはまだら模様の状況だ。CM全面解禁にも踏み切れないだろう。エスビーのラー油は23日発売とのことなので、恐らく発売と同時に広告の大量投下が予想される。
規模に勝る企業がその体力を生かして「同質化」を仕掛けるのは戦略の定石だ。このままだと「桃ラー」はエスビーの追い上げでピンチに追い込まれることになる。
ただし、FMA(First Movers Advantage:先行者優位)は「桃ラー」にある。ネットを通じてしっかりブランディングができている。比較されても「元祖」を選ぶ消費者も多いはずだ。
価格面での不利はいずれ値下げか増量で調整するとしても、まずは本当に手に入らない「幻の商品」で終わってしまうのではなく、増産を進めて配荷を順調にするのが勝負の土俵に残る条件だろう。ここ1〜2週間が勝負のしどころであることは間違いない。
練りに練った新商品で新たな市場を開拓したとしても、圧倒的規模を持つリーダーに模倣をされたとき、シェアを維持できるのか。対策はどうするのか。新規事業やベンチャー起業に携わる人にとっても、参考になる戦いだろう。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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