苦しい時こそ筋を通す――リコール騒動を巡るトヨタのサプライヤ対応(2/2 ページ)
内紛の噂まで飛び出してきたトヨタ自動車の大規模リコール騒動だが、トヨタはこの難局を無事乗り切ることができると筆者は予想する。その根拠には、リコール問題が拡大していく中での対象部品のサプライヤに対するトヨタの対応があるという。
責任のなすりつけ合いに陥ると、不具合の真相究明は進まない
トヨタの今回の対応は、今後の問題解決や中長期的な組織としての調達・購買力の維持、改善にもつながります。問題解決は、「そもそも問題は何か」を正確に認識することから始まります。社内はともかく、対外的に問題を安易にサプライヤに転嫁してしまったら、いくら経営陣が社内に対して口酸っぱく言っても、社内の技術者や担当者はこの問題はサプライヤのものとして、真剣に取り組むことをせず、改善どころか、真の原因究明すらままなりません。
当然、その間、社内もサプライヤも責任のなすりつけ合いに陥り、不具合の真相究明、改良は進みません。顧客や潜在顧客から見れば、部品サプライヤに原因があるにしても、製品メーカーにも設計、部品受け入れ上の責任があると考えるのが普通なので、その間の対応の遅れは当然、製品メーカーの信頼の喪失につながります。フォードとブリヂストン・ファイアストンとのエクスプローラーのタイヤリコールをめぐる応酬が典型的な例です。
中長期的な組織としての調達・購買力の観点からは、フォードのブリヂストン・ファイアストンへの対応、トヨタのCTSへの対応は、フォードとブリヂストン・ファイアストンとの関係、トヨタとCTSとの関係にとどまらず、今回のPurchasingの調査のように、フォード/トヨタ対全取引先との関係という構図で、幅広い既存取引先や潜在取引先から評価されます。
もし、フォードやトヨタがリコールで陥ったような状況の中で、買い手企業が自分の非を認めず、理不尽な対応をサプライヤに迫ったら、ほかの取引先を有する技術力・競争力を持つ優良なサプライヤほど、そうした買い手から離れ、寄ってくるのは他社と取引できない二流以下のサプライヤばかりとなってしまいます。
今回のトヨタのような大規模な一般報道がなくても、サプライヤに対する業界内での買い手企業の評判、特に悪い噂はすぐに広まります。意外と業界の中の人脈はつながっているものです。
人も企業も苦しい時に本性が現れるものです。ベンチャー企業にいると、この意味がよく分かります。私たちの力量不足もありますが、これまで付き合いのあった人でも大半の方が自分の元から去っていきます。お願いしても会ってもらえる数も減り、会えたとしても、自分達に関心を示してくれる方の数も減ります。それでも、企業の大きさや器にとらわれずに、自分たちの力量を正当に評価して下さる方も少なからずいるのも事実です。当然、こちらも苦しい時に支えて下さっている方々に対しては、一生何があっても仕えていこうと考えますし、相手が苦境に陥れば「そうした時こそ恩返しすべき」と考えます。
買い手企業がサプライヤからこうした信頼を得ていれば、苦しい時ほど優良なサプライヤからよい提案が集まります。そうした意味から、今回のトヨタの対応を見ていると、一部のマスコミ報道で言われているほど、トヨタの屋台骨は揺らいでいないものと見られます。苦しい時こそ筋を通す。トヨタのようなそうした姿勢を私たちも貫くべきものと考えます。(中ノ森清訓)
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