『アバター』と『イングロリアス・バスターズ』どっちがファンタジー?:映画でポン!(3/3 ページ)
誠読者にオススメしたい映画を2つ取り上げ、あれやこれやと対決させる連載『映画でポン!』。第4回は『アバター』VS.『イングロリアス・バスターズ』。
さすがタラちゃん、そこにシビれる! あこれがるゥ!
わこ あ〜、あのオチはねっ! もう口あんぐりしちゃったよ。え? ここでこの人死んじゃうの? いままでいろんな人が殺したいと思ってたとしても、事実に縛られてできなかったことをそんなにあっさり? と。
佐々 「そこにシビれる! あこれがるゥ!」んじゃないか。それでこそ俺たちのタラちゃん、口数が多いのがなんだけど、実はスカッと爽やかな映画作家だよな。
わこ あの薀蓄(うんちく)満載がスカッと爽やかかどうかは……、でもまあ、タラちゃんの映画はなんかフィジカルな感じするよね。脚本で説明するんじゃなくて、映画全体でねじ伏せる! っていう感じの。
佐々 あの薀蓄はほとんどストーリーの説明ではないからのう。本人がああいう丁々発止なセリフの応酬が好きなんじゃろ。わしも好き♪
わこ 単におしゃべり好きなだけじゃないの?
佐々 そうともいえる(笑)。セリフがやたら多いから、何だか頭でっかちに見えるかもしれないけど、根幹はフィジカルだよ。頭で理解するんじゃなくて、体感としてスカッとするんだな。そこが好き。
わこ それにしても戦後だいぶ経つとはいえ、捕虜協定とかまるで無視なナチ狩りとかって大丈夫なの? って心配になっちゃうよ。ユダヤ・ハンター VS. ナチ狩りでどっちもどっちだけど、どっちも心配になっちゃう感じ(笑)
佐々 帝国主義時代のことをいまの価値観で判断したら全部アウトだろ。そろそろ第二次大戦もネタとしていじっていい時期に来てるんじゃないかのう。爺的に感慨深い……。しかしブラピファン的にはどうなんかね。ブラピの役は意外と脇役で、本筋はユダヤ女の復讐劇、それも西部劇スタイルの。クライマックスの舞台が荒野の砦ならぬパリの下町の映画館ってあたりはご愛嬌。タラちゃんの映画への偏愛がにじみ出てる。あの燃え上がるスクリーン、煙に映る女の顔……イカすよな〜、爺うっとり。
わこ ブラピ率いる名誉なき馬鹿野郎ども=イングロリアス・バスターズが彼女に協力するのかと思ったら、そうじゃないんだよね。お互いに関係ないまま思惑が交錯していくのが面白い。ユダヤ女の復讐劇はヨーロッパ映画風でシリアスなのに、ブラピのバスターズはノリがアメリカンコメディっぽくて完全にこっちがサイドストーリー扱い(笑)
佐々 で、どっちにも関与してるナチスのランダ大佐ってのが、狡猾で嫌味ったらしくて自分本位でイイんだ! 3カ国語で披露する薀蓄がまたすごいし、寝返るときの要求は細かくて小物っぽさがにじみ出ちゃっててさー……失脚したあとの政治家みたいで(笑)
わこ で、あの仕打ちだもんね。タラちゃんそんなに鍵十字が好きか! と苦笑い。史実の中の記号を使ってるから心配になったりしちゃうけど、パラレルワールドのエンターテインメントだと思って観るのが正解だね。
佐々 だからさー「ネイティブアメリカンに酷いことしてごめんね映画」にも見える『アバター』よりこっちのほうが正しくファンタジーだと思うわけじゃよ。だって暗喩とか意識してないだろ。あれを題材に選んでるにもかかわらず、戦争の悲惨さについて訴えたいとか民族のうんぬんについてどうとか、っていう意思は感じられない。ただ撮りたいもの撮ってスカッとしたかっただけなんだ、っていうのが『スター・ウォーズ』っぽいしさ。
わこ え!? そこに来るのかよ! 正しいファンタジーの有り様って暗喩なしでいいのか? うーむ……まあ『スター・ウォーズ』よりは脚本がよくできてると思うけど?
佐々 じゃあ、『スター・ウォーズ』よりよくできたファンタジーってことで。
わこ それって何か急にハードル下がった気がするよ……(笑)
櫻井輪子(さくらい・わこ)
映画好きが高じて、コラムを書いたりもするイラストレーター。『WOWOWマガジン』『問題小説』『てぃんくる』などでイラストコラムを執筆。『Tokai Walker』の金子裕子さんのコラム「セレブ診療所」にコマ漫画を付けている。過去には『DVD&ビデオでーた』でビデオレビューのイラストコラム、『DVDでーた』で記者会見をレポするコラム『現場から櫻井輪子でした』を連載。
著書に『「へのへのもへじ」から始める 世界一カンタン! イラスト練習帳』がある。公式サイト「SakuraiWako'sめカラうりぼう」。
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