コラム
なぜ経営者は「社員と価値観が共有できている」とウソをつくのか:吉田典史の時事日想(3/3 ページ)
経営者が「価値観共有」をうたいながらも、それが現実に実践されていないケースが中小やベンチャー企業で見られると主張する筆者。なぜ、経営者たちは価値観共有をうたうのか、そしてなぜ価値観は共有されないのだろうか。
「価値観共有」の化けの皮がはがれる日
私が20年前、大学生のころ読んだ本で印象に残った一節がある。おそらく、今の日本の企業社会はここで書かれてあるような方向になりつつあるのだと思う。
ヨーロッパ型民主主義を根底において支えているのは、人間はそれぞれ相互に異なった利害、意見、感情をもっており、したがって潜在的に対立しているという人間観である。一言でいえば、「個と対立」の思想である。そして、人間はそれぞれ潜在的に対立しているからこそ、言葉や理性、つまり、ロゴスをもって相互の利害を調整し、対立の顕在化を予防しなければならないのである。
またここから一般の社会生活においても相互に取り交わした契約は最後まで守らなければいけないという慣行も生まれてくるし、社会思想上においても、さまざまな契約の思想が生まれる(志水速雄著『日本人は変わったか』、P147、日本経済新聞社)
このように自立性の強い個人が増えているから、契約の考えが社会に浸透し、争いなどが増えてきているのではないだろうか。特に今の20〜30代半ばまでくらいの世代と取材を通して接すると、そのうちの一部にこういった価値観を持っている人と出会う。全体から見ると、ごく少数でしかないが、私はこの人たちこそが、「対等な労使関係の時代」を作る人材と思っている。その時、「価値観共有」の化けの皮がはがれるに違いない。
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