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コラム

増える“ゲームっぽいコンテンツ”――ゲームの再定義競争野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/3 ページ)

ゲームビジネスは市場拡大しているものの、楽観ムードではなく、この先の不透明感がぬぐえない。ソーシャルゲームのように万人受けするライト化がさらにすすむのか、あるいはコアユーザーを満足させる進化が求められるのか。市場変化を自社に有利に誘導する「ゲームの再定義」競争が世界的に展開されるなか、日本企業はどう動くべきなのだろうか。

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カジュアル化の歴史

 2000年代のゲーム産業のトレンドをひと言でいえば、カジュアル化の歴史である。カジュアル化とは、それまでゲームをプレイしていなかった層に向けて、製品やサービスの内容を変えていくことである。

 ゲームプレイには「学習」が必要であり、初心者が複雑なゲームをいきなり楽しむことはできない。団塊ジュニアがいわゆるビデオゲーム世代であるが、彼らはファミコンのプレイから始まり、ゲーム産業の発展と足並みを揃えて「学習」してきた。ゲーム会社は、彼らのニーズに長年向き合って開発を繰り返した末、ゲームは年々複雑なものとなり、若年層の初心者に対して大きなハードルを作ってしまった。1990年代末にビデオゲームの国内出荷高が減少に転ずると、新しい客層を開拓しようとカジュアル化へかじが切られた。

 代表例が、初心者でも操作できる新型コンソール機である。任天堂のWiiは、どの家庭にもあるリモコン型のコントローラによって、初心者でも直感的にプレイできることが売りとなった。ソフトのカジュアル化も進み、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』に代表されるTouch Generationsシリーズのように、初心者に優しいラインアップが実現した。こうして2006年からビデオゲーム市場は再び盛り返した。

 このころ、オンラインゲームという新しいゲーム産業が誕生した。日本では2002年ころから普及期に入ったものの、ビデオゲームや携帯コンテンツなど競合が多く、早々に市場成長が鈍化した。そこで、オンラインゲーム業界においても、カジュアル化によるユーザー層拡大の試みがなされた。

 その1つが、定額制から基本無料アイテム課金への料金改革である。定額制ではいくらプレイしても月額1500円というように、コアユーザーに対しては割安感があったが、気軽に利用したいカジュアルユーザーにとっては固定料金がハードルとなった。基本無料でプレイできれば、ユーザーのすそ野を広げることができると同時に、アイテム販売によって一部のユーザーから高いARPU(客単価)を獲得できる。この新しい収益モデルは、PCオンラインゲームでは2006年に普及し、後に携帯ゲームやソーシャルゲームに受け継がれた。

 現在のソーシャルゲームは、この数年のカジュアル化の先端に位置している。ゲームを目的としないSNSユーザーに対して、友達とのコミュニケーションのためのミニゲームを提供し、結果的にゲームに課金させる仕組みは、カジュアルユーザー向けの新しいビジネスモデルである。

 カジュアルユーザーをひきつけるには、「気が向いた瞬間に即座にゲームを始められる」状況を作ることが必要である。これまでは、ビデオゲームならばパッケージゲームの購入、PCオンラインゲームでは大容量のクライアントソフトのダウンロードという、プレイ前の準備が必要であった。この準備を不要にし、インターネットにアクセスしさえすればゲームをプレイできる技術的仕組み(SaaS)が、ソーシャルゲームを支える。必要なソフトやデータはすべてゲームサーバが用意してくれるので、ユーザーはSNSサイトや携帯Webサイトに接続するだけの最低限の設備を持っていればよい。

 SNSから出発したソーシャルゲームでは、ゲーム会社からWebサービス会社や携帯コンテンツ会社へ主導権が移り、新しい市場と見ることもできる。一方、長期的なトレンドから見ると、ソーシャルゲームは突如として現れたわけではなく、カジュアル化の歴史の上に存在することが分かる。

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