増える“ゲームっぽいコンテンツ”――ゲームの再定義競争:野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(3/3 ページ)
ゲームビジネスは市場拡大しているものの、楽観ムードではなく、この先の不透明感がぬぐえない。ソーシャルゲームのように万人受けするライト化がさらにすすむのか、あるいはコアユーザーを満足させる進化が求められるのか。市場変化を自社に有利に誘導する「ゲームの再定義」競争が世界的に展開されるなか、日本企業はどう動くべきなのだろうか。
ゲームの再定義競争
日本人の悪い癖は、市場規模など目に見える量的指標が出る前は、どんなに質的に重要な変化であっても見ようとせず、しかしいったん量的な変化が起こると今度はそれを絶対視してしまうことだ。この癖が、ゲームの定義をめぐってグローバルに展開されている「再定義競争」の足かせになってしまう。
10年前、米国や韓国からオンラインゲームが出されたとき、ビデオゲーム市場の1割に満たないことから、取るに足らないという意見が根強かった。あくまで韓国で流行っているものであって日本では根付かないという認識だ。
しかしながら、オンラインゲームのインパクトは、プレイ前にゲームソフトを購入する消費スタイルを変え、ネットワーク上で他人とプレイする利用スタイルを打ち出す、ゲームの新定義にあった。その質的な変化は、一度始まってしまうと元には戻せない。いまやPS3やXbox360でも、プレイ後のアイテム課金が行われている。
ゲームの再定義とは、単にヒットタイトルを作ることではない。単発の成功ではなく、ユーザーの利用スタイルが変わり、企業のビジネスモデルが変わり、業界構造が変わることである。
「ゲームとは家で利用するものである」「人と一緒にするものである」「移動中の暇つぶしである」、こうした世間の常識を作り出すことも含まれる。利用スタイルが変われば、ゲームに求められる品質基準も変わる。「面白い」という基準はユーザーの主観にゆだねられるので、絶対的な品質基準はない。
これだけの大きな変革をするには、一企業の力だけでなく、関係各社との連携が必要である。戦略的に足並みをそろえるには、どんな市場を作るのか、ゲームをどのように人々に利用してほしいのかという、ビジョンを語る必要がある。
しかしながら、議論が必要な萌芽期には話題に上がらないのに、いったん成功企業が現れ、市場規模という量的指標が出ると、その成長がどれだけ続くか、いつまでなら乗り遅れないかという話題で一色となる。
この考え方は、現在の趨勢が質的に変化しないことを前提としているが、その保障はどこにもない。むしろ、新しくビジネスチャンスを狙う企業は、異質性を唱えて参入し、既存企業と同じ路線では戦わないものだ。「似てはいるが違う代物である」とレッテルを貼って軽視しているうちに、彼らのゲーム再定義が完了し、その時には既存市場を上回るとてつもない市場に成長しているのだ。
これだけ変化が激しい業界では、流行に乗り遅れず素早く対応できる柔軟な組織を持つか、あるいは自らが質的変化(イノベーション)を起こす張本人になるか、どちらかだろう。ゲーム大国である日本には、ぜひともゲームの再定義を行いグローバルに展開する主体になってほしい。
野島美保(のじま・みほ)
成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。
公式Webサイト:Nojima's Web site
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