ゲームの情熱は勉学に向けられるか?――教育ゲームの可能性:野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/2 ページ)
デジタル教科書の準備が進められるなか、教育用ゲーム・アプリの新市場が期待される。ゲームに熱中するメカニズムを解明し、勉学に生かす方法はないだろうか。娯楽と教育の新しい融合を模索する。
教育オンラインゲームの未来像
紙からコンピュータにメディア変換することで、無味乾燥な勉学の作業に、鮮やかな映像とゲームの操作性が加わる。iPadアプリの「元素図鑑」が話題になったが、デジタル教科書によって、学習意欲が高まる教材が期待される。
紙の教材を出発点として電子化を図るのとは逆に、ゲームを出発点とした教育へのアプローチもある。歴史系や学習・クイズ系のゲームのように、既存のゲームシステムに教育的なコンテンツを載せる動きである。
しかし、デジタル化・オンライン化の可能性はこれに留まらず、まだ論じられていない空白の領域がある。それは、インターネットを通じて他人と競争あるいは協働する、ソーシャル要素である。もちろん、ユーザー対戦のクイズゲームなどはすでに存在するが、ソーシャルの真の力が発揮されているとは言えない。
ソーシャルの真価は、強力なモチベーションを生むことにある。他人がいるからこそ自分らしさが重要になり、人間社会があるからこそ目標が生まれる。他人の存在と目標意識から、オンラインゲームの熱中は生まれる(参照記事「ネトゲ廃人を脱するための3カ条」)。
オンラインゲームのモチベーション・システムの特徴は、他人と自分との差や関係が分かりやすく、個人の努力量が可視化されることにある。ゲームキャラのレベルや所持している仮想アイテムが、ゲーム世界での行動量や経験や人望を表す。
現在のゲームビジネスでは、このモチベーション・システムの終点にマネタイズのポイントを置き、仮想アイテムをそのまま販売する形をとる。「アイテムが売れる」終点ばかりが着目されるが、重要なのは、そこに行き着くまでユーザーのモチベーションを高める仕組みである。
仮に、現状のアイテム課金ゲームの延長線上で、教育オンラインゲームができたと想像しよう。おそらく教育オンラインゲームでは、アイテムは販売しないほうがよい。アイテムは金を出して買うのではなく、「勉強をよくした者」が持つべきだからだ。モンスター狩りで得たレア・アイテムを持つのが格好いいのならば、勉強という努力で得たレア・アイテムも格好いいはずだ。勉強が格好いいという価値観を作り出すことから、教育ゲームのモチベーション・システムが作動する。
モチベーションさえ生まれれば、マネタイズの道は開けてくる。例えば、レア・アイテムをかけたテストに課金してもよい。ゲーム・アイテムのために小遣いをもらうよりも、オンライン算数模試を受験するという方が、親の財布も緩みやすい。ゲームをするように勉強をして、成果をアイテムという形にするために模試をうける。これも1つの未来像だ。ただ問題もあり、アイテムという“人参”がないと勉強できなくなる恐れもある。
ゲームビジネスと教育に共通して言えることは、参加者に意欲を持たせる重要性である。「参加者の努力に対して何を報いるか」は、仮想世界の根本的な設計思想である。同様に、若者の勉学に対して、私たちは報いとして何を提示すべきか(あるいは提示しないべきか)、慎重に考えたい。
野島美保(のじま・みほ)
成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。
公式Webサイト:Nojima's Web site
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