アニメ化は必ずしもうれしくない!?――作家とメディアミックスの微妙な関係(4/4 ページ)
小説や漫画がドラマ化やアニメ化されることは、それが広告効果となって知名度が上がったり、売り上げが増えたりするため、一般的には作者にとって良いことだと思われがちだ。しかし、ライトノベル作家の松智洋氏は「必ずしも良いとは限らない」と主張、アニメ化された『迷い猫オーバーラン!』の経験を例にメディアミックスの功罪を語った。
作家がメディアミックスに望むこと
松 こうした状況を前提に、作家がメディアミックスに望むこととして、2つ挙げたいと思います。
1つ目は分かりやすいのですが、「メディアミックスとして良いアニメ作品を完成してもらい、結果として作品の寿命が延びるように、息の長いコンテンツとして育成してもらうこと」が一番の望みだと思います。コンテンツを作る人からすると、原作は種だと思うんです。僕らの書いているストーリーやキャラクターはコンテンツの種で、それを育成したり、伸ばしたり、弱点を補ったりするのがメディアミックスの理想なのかなと思います。
それに足る原作を作れるかどうかという意味においては、作家側の責任も当然あるわけです。しかし、今のように1クールのアニメで短命のブームを一瞬巻き起こして、1年後には誰も覚えていないという状況になることは、作家側としては必ずしも望ましいわけではないと思います。
そのために考えるのが2点目で、メディアミックスをされる方々が売れている作品に飛びつく形ではなく、メディアミックスによって相補的な関係を築ける作品を選んでアニメ化していただければ良いのではないかと思っています。結局、原作準拠のアニメを作っていくというのは、「原作を買っている人の何割かがDVDを買ってくれればペイするじゃないか」というビジネスモデルになりかかっているような恐怖感があるんですね。
アニメ化が宣伝効果になって新しい読者が原作を買ってくれるというのではなくて、コア読者がある程度いる原作をアニメ化して、そのコア読者が怒らないようなアニメを作ってしまうと、原作の縮小再生産がメディアミックスということになってしまいます。それでは、お互いにメリットがないと思います。
だから今、あかほりさんがやられていたような、企画書を軸として小説でもアニメでも漫画でも面白い作品を作っていこうという冒険がなかなかしにくいし、それをやって失敗するとネットなどでものすごくひどい目にあいます(笑)。
『迷い猫オーバーラン!』のアニメは原作をほぼ使わず、各話監督制にする代わりに、シリーズ構成に僕の名前を入れていただいて「全部原作者がやったことなので、責任は原作者にあります」という形にしてもらいました。かなり無茶をしていただいたのですが、結果としてセールス的にも評判的にも放送枠やプロダクトの平均よりはかなり良い数字となりました。
僕は『迷い猫オーバーラン!』のメディアミックスに関しては非常に恵まれていて、漫画化の方に至っては幸運にも『週刊少年ジャンプ』で人気作を連載していた先生(矢吹健太朗氏)に描いてもらえました。でも、やっぱりそれは希少な例なんですよ。原作者の僕にゲームやアニメのシナリオライターとしての経験があったので、「これはすべてお任せします」「これとこれとこれ以外は見ません」みたいなチェック機能についても関係が作れたので、うまくいっただけです。
ぶっちゃけて言うと、『迷い猫オーバーラン!』の原作自体の販売部数は普通なんですね。それくらい売れている作品は同時期に10作くらいは走っているんです。そういう中でメディアミックスする作品として選んでもらって、さらにメディアミックスした後も評価してもらうためには、メディアミックスする側が新しい工夫や冒険をしてくれないとなかなかうまくいかないという状況に今はなっているのかなと思います。
最後にメディアミックスされる側の作家として心がけたいことがあるとすれば、新たなコンテンツの種になる作品を生み出すためには、現在アニメ化されている作品の類似作ではなく、新たな市場を感じさせるようなものを書くことが理想だろうと思うのです。「アニメ化されたい」と思うと、アニメっぽい作品を書いてしまうわけですよ(笑)。
つまり、アニメで見たようなものを書くという不思議な現象が起きていて、「これは下手をすると作家側からメディアミックスを縮小させているぞ」という恐怖感が今あります。そのためメディアミックスされることにこだわらず、自由な発想で作られた作品がむしろ突破口を開いていくのかなと感じているので、僕を含めた作家側はなるべく冒険をした方がいいのかなと思っています。
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