もう男だけの食べ物じゃない! 「ラーメン女子」を狙うワケ:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
ラーメン店に女性客が増えているようだ。日本経済新聞は1月28日の記事で「ラーメン女子」と名付けている。「男の牙城」であったはずのラーメン店に「女子」を呼び込むのは、いかなる戦略なのだろうか。
ラーメン女子が紡いでいく人生ドラマ
ターゲットを拡大するとどうなるのか。
最も懸念されるのは、既存顧客層の離反だ。「女子どもの来る店に行けるか!」とか、「これは男の食いもんじゃねぇ!」とかである。
それは、ラーメンという商品、男性というターゲットに限ったことではない。高級志向の店が低価格商品を扱って従来と違う顧客層が押しかけた場合などを考えれば、既存顧客が離れていくことは想像に難くないだろう。そのリスクを冒しても坂内は女性客を開拓しようとしているのだろうか……。
実は同社の「女子狙い」には、「その前」がある。
記事では触れられていないが、同社は来店客の「高齢化」が顕著であったという。2010年5月24日付日経MJフードビジネス欄に「喜多方ラーメン 若者客開拓へ新型店」の見出しで記事が掲載されていた。同記事によると客層は、ほかのラーメン店より高齢者が多く、30〜40代が4分の3を占め、10〜20代は2割にとどまるという。
2008年のメタボ検診法制化以降、中高年にとってカロリーの取りすぎはタブーだ。ガッツリ系を避けるようになる。自社のメイン顧客をつなぎとめようと思えば、味はそのままにボリュームを抑える方向性に走ることになる。しかしそれは、2005年ごろからブーム化し定着した「大盛りメニュー」の台頭という流れに反することになる。
同社は、メニュー、量、内装の見直しで若者の来店をうながし、客層を広げる(同日経MJ)改定をした。具体的には、喜多方ラーメン、あぶりチャーシューごはん、味付け卵にゆでギョーザが付いたセットメニュー(850〜890円の予定)など量が多い定食を拡充させ、「揚げチャーシューラーメン」など新メニューも加えるという施策だ。確かにその後、同社の新規出店した店舗や既存店でもランチ時には若年層の姿が目に付くようになった。
若年層を取り込んだ。次は女性を取り込もうという戦略をカタチにしたのが「野菜たっぷりしょうがラーメン」なのだ。同メニューは、まずは新宿パークタワー店限定だというから、実験段階ということだろう。
顧客も歳を取る。少子高齢化が進む日本市場。従来のユーザーだけを相手にしていたのでは、櫛の歯がこぼれるようにぽろぽろと消え去っていく顧客の背を、手をこまねいて見送るだけになってしまう。
また、既存顧客のニーズにだけ合わせていると、徐々に自社本来の独自性や、世の中の流れと乖離(かいり)してしまう。その商品カテゴリーにおいて「アタリマエ」になっていることを疑わずにいると、新たな成長のチャンスを見失うことになる。
ここのさじかげんが大変に難しいのだが、既存顧客を大切にしつつ、ターゲットの拡張、新たなポジショニングの獲得という「命がけのジャンプ」も避けて通れないのである。
これからは、男子だけでなく、女子もまた、ラーメンに、甘酸っぱい人生模様を重ね合わせていく時代になる。ラーメン女子が紡ぐドラマもまた、ぜひ聞いてみたいものだ。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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