アニメで“お金”と“未来”の話を描く――ノイタミナ『C』中村健治監督インタビュー(4/4 ページ)
フジテレビの木曜深夜で、数々のヒットアニメを送り出してきた“ノイタミナ”枠。その最新作として4月14日から放送されるのが「お金と未来」をテーマにしたオリジナルアニメ『C』だ。お金をテーマにした作品をなぜ、そしてどのように作ろうとしているのか。中村健治監督に尋ねた。
ノイタミナはテレビっぽい
――作品としてのゴールは経済入門のようになればというお話があったのですが、ビジネス的なゴールはどこにあるのですか?
中村 監督になった時、「作品を作るのにどのくらいのお金が投資されているか」といったことを別室に呼ばれて、レクチャーされたことがあります。「いいかお前、監督になったということはこういうことだぞ。だから、分かっているだろうな」というように。
僕は基本的に頼りないので(笑)、面倒見のいい方にかわいがっていただいたりしたのです。監督デビューがノイタミナですから、フジテレビの方々に育てられたという面はあります。お金の話を聞いて、僕としては「それはそうだろうな」と感じました。自分なりに理解したつもりです。
視聴率は昔は言われていました。テレビ局からというより制作会社の方から言われることがありましたが、でも最近は言われないですね。
――では、何がゴールになるのですか。社会にインパクトを与えられればいいということですか。
中村 きれいごとを言うと、ノイタミナがあることによって、アニメ業界が一色にならず、多様性が維持できると思うのです。実験や流行と違うことができたりするので。
アニメで売れるジャンルは、実はそんなに何種類もないんです。ノイタミナはそういうものには背を向けた、クセのある作品を作っていて、へそ曲がりの人にとっては面白い枠だと思います。「ほかのアニメは見ないけど、ノイタミナなら見てやるよ」という人は正直いると思いますし、年配の方に「私は普段アニメを見ないんだけど、あなたの作っているものは見たのよ」と言われることもあります。そういう方はソフトも買わないし、ネットでも発言しないので、サイレントマジョリティのようになっているのですが。
放送を楽しみにしている人が多いということで、ノイタミナはテレビっぽいですね。コンテンツ(DVDやBlu-rayなど)で稼ぐビジネスモデルのはずなのに、放送っぽいというか。
――かつてのフジテレビの「楽しくなければテレビじゃない」みたいなノリですか。
中村 というよりも、正直に言うと、「当たり一辺倒な、つまんないものは作るなよ」みたいなプレッシャーはありますね。「どこでも作れるようなものは作るな」「うちだから作れるものを作れ」というような。
建設的な道化師を演じたい
――東日本大震災はアニメの制作現場にどのくらい影響を与えているのでしょうか。
中村 スタッフの家族が被害にあわれたりもしました。また、テレビの報道などを見て、仕事が手に付かなくなったりということが実際にあります。スタジオでも「アニメを作っている場合じゃないよ。今すぐ俺たち現地に行った方がいいんじゃないか」みたいな話が出たこともありました。
震災直後のアフレコでは、キャストさん含めて全員で黙祷しました。「キャストたちでも何かあった人がいるんじゃないか、気持ちが集中できないんじゃないか」と考えて「みんなでとにかく祈ろう」と提案して。
作品内容にも影響は出ていないとは言えません。物語を大きく変更するようなことはありませんが、演出や絵、言葉の表現については慎重に検討しているところです。
――攻撃のエフェクトなどで水はよく使われますよね。
中村 そうですね。作品を見てつらい気持ちになってほしくありませんから、それでつらくなるなら、正直「全然変えますよ」という感じですね。嫌々ではなく、むしろ「積極的に変えよう」という感じでみんなやっています。
――スタジオで「アニメを作っている場合じゃないよ」という人もいる中で、あくまでアニメを作り続けているわけですが、そこにはどういった使命感があるのですか?
中村 黙祷したアフレコの日にも言ったのですが、僕自身も今までの人生の中で、いろいろとしんどかった時がありました。体調が悪くて検査をしたら結果が思わしくなくて、「命にかかわる深刻な病気になったんじゃないか」と本気で考えて不安になったり。
結果それは何ともなかったのですが、そういう時に気を紛れさせられる、あるいはその時間だけ嫌なことが忘れられるというように、僕はアニメはつらい人の痛みを和らげたりするためにあると思っています。「今週これがあるから頑張って今日は会社に行こう」「今日の夜帰ってきたら見られるから楽しみにして行こう」というような。
今、元気な人まで落ち込んでいったらまずいので、僕らはまるでまったくダメージがないかのごとく振る舞って、けろっと作品を作り続けようと思います。もちろん、余計なことをしないように、気を付けながらですが。社会に対して建設的な道化師のようなものを演じたいです。『アンパンマン』を見て震災で被害を受けた子どもたちが笑ったりするように、そういうことの延長線上に僕らの仕事の唯一無二の意義があると思っています。「誰かのためになればいいな」と思って作っています。
――今回の震災では「『魔法少女まどか☆マギカ』の最終回を見るまでは死ねない!」という被災地などでの声も見かけました。
中村 そうです、そういうのが大事なんですよ(笑)。それがまさにアニメの本質で、例えば映画でも音楽でもお笑い漫才でもそうだと思います。「世の中になくてもいんだけど、でも何かあった方がいいような気がするもの」はたいてい、そういうものかなと僕は思うんですよね。『C』もそういう風になればいいな、と思っています。
関連記事
- 業界が"先祖返り"している――『ハルヒ』『らき☆すた』の山本寛氏が語るアニメビジネスの現在
日本発コンテンツとして期待され、国際的にも注目を集めていると言われているアニメだが、制作現場の労働環境の悪さが伝えられることも少なくない。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』を手がけた山本寛氏にアニメビジネスの現在を尋ねた。 - デジタル化した世界で、人の嗜好はアナログ化する――『東のエデン』に学ぶ、単館上映ビジネス(前編)
近年、テレビアニメの放映数が減少傾向にある中、劇場アニメが注目されている。中でも数館から数十館規模の劇場公開から大きく注目されるような作品も表れており、その代表となっているのが『東のエデン』だ。劇場アニメの小規模公開ビジネスはどのように行われているのか、キーパーソンたちが語った。 - 悪人を倒せば世界が平和になるという映画は作らない――宮崎駿監督、映画哲学を語る(前編)
『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』など数々の映画で、国内外から高い評価を受けている宮崎駿監督。アニメーション界の巨匠が何を思って映画を作っているのか、どんなことを憂いているのかを語った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.