脱原発は「やらなきゃいかん」こと――孫正義、かく語りき:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
発生から1カ月以上経っても、いまだ日本を悩ませる福島第一原発の事故。原発問題に悩み、私財を投じて、脱原発の自然エネルギー財団を設立すると表明した孫正義氏の会見に参加してきた。
やらなきゃいかんことがある!
質疑応答では、「財団や寄付がソフトバンクの事業とどうつながるのか?」という質問があった。
「この1カ月、毎日悩んでいる。通信を本業とする会社がそこまで手を広げていいのか。どうしたらいいのか、心が定まらない。それが正直なところです。だが子どもたちに危険が降りかかり、見るに見かねて正義感がムラムラしている」
「では孫さんにとって正義感とは何ですか?」と質問があった。彼の答えは、次第に叫びになり、会場は水を打ったように静まり返った。
「ソフトバンクの企業理念は1行です、『情報革命で人々を幸せに』。これまで一切脇目もふらずに情報革命を突っ走ってきた。人々を幸せにしたいと思ってきた。情報革命か、人々の幸せか、平時であれば両方。でも今は国難の時期、国民は一番不幸せです。生まれてきた子どもたちに使命を果たせるのか。それが正義なのか? 毎日悩んでいる。自分の非力さに悩んでいる。政府を動かせるのか、電気事業連合会を動かせるのか。過信しているのではないか。そう言われています。それも事実です。だけど、できるかできないか分からんけど、やらなきゃいかんことがある!」
正義から自分の仕事を考える
彼は“名うての説得者”でもあり“自説の強力なインフルエンサー”でもある。それで事業を築いてきた。ただ、その点を差し引いても、今回の正義感には感じるところがあった。この災害は、私にも自分の仕事や人生観への問いかけとなったから。自分の仕事は正義なのか、人々を幸せにするのか、つくづく考えさせられた。
私の関わるマーケティングとは情報操作の側面がある。「こう感じてもらおうというシナリオ」を作り、それで「あるイメージを抱いてもらい」「物語を広めて」「買っていただく」。そんなもろい橋の上に成立するミッションである。さらに商品やサービスを、消費者まで適時適量に供給するプロセスでもある。今回の災害でどちらも崩れた。福島への差別ひと言も打ち消せず、必需品も届かない。戦時にマーケティングは何の役に立たない。
ライターの仕事のことも考えた。連載タイトル『うふふマーケティング』の“うふふ”とは、「うふっ」とか「なるほど!」という幸せな記事を書きたいから付けた。震災後、「それでいいのだろうか?」と思った。「何を書くべきか?」「どう伝えるべきか?」を悩んだ。
きちんと答えは出せていないが、少なくとも“善いマーケティング”をすること、言葉の力で誰かを幸せにすること……お金だけではない支援をしたいと思った。だから、自分の関わるクリエイター支援事業では、小さなチャリティもする。孫さんの何十分の1か悩みつつ。
そう言えば孫さんの名前は「まさよし」だが、これは「せいぎ」とも読める。名は体を表すということで、彼の行動は必然なのだ。
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