ペットボトルのキャップ共通化に見るサプライチェーンの行方(2/2 ページ)
経営、マネジメントに携わる者にとっての最近の関心事の1つに、東日本大震災後、調達品の需給バランス、サプライチェーンがどう変わるのかというものがある。正直、現段階で答えがあるわけではないが、それを見極める上での参考になりそうなペットボトルのキャップ共通化を例に、その方向性について考察する。
仕様を標準化した時のデータは得られた
被災キャップ工場の復旧後、元の仕様に戻すのか、白無地のキャップを採用するかは各社の戦略に委ねられるが、少なくとも、仕様を標準化、簡素化すると売り上げにどのような影響が出るかというある程度のデータは得られているだろう。
競合他社も白無地のキャップを採用しているので、実際の競争下のものではないが、仕様の標準化、簡素化の是非について検討する上で、やってみなければ分からないという感覚的なものを1つ超えた議論ができるようになっている。仕様の標準化、簡素化のコスト削減メリットは明らかだ。加えて、今回の震災を踏まえて、仕様の標準化、簡素化は事故や災害に負けない柔軟なサプライチェーン作りにも役立つことが明らかとなった。
一方、いくら供給リスクが減るからといって、サプライヤやイノベーションへの影響を考えると、今回のような非常時の対応を除き、法制や規格でペットボトルのキャップの統一を図るべきものではない。規格であれば、まったく違う競争を持ち込むことで回避するという抜け道がないわけではないが、そうなれば、サプライヤ間に過度の競争を強いることになり、体力のあるところしか生き残れなくなってしまう。そうした市場ではサプライヤの寡占が進んでしまい、イノベーションは減り、中長期的にはコスト高となってしまう。
いずれにせよ、中小企業では、今回の震災ならびにその後の生産の落ち込みに耐え切れずに廃業に至るところも出ており、その流れはこれからさらに増え、サプライヤの集約が進むものと見込まれる。
ペットボトルのキャップの共通化、サプライチェーンが、被災工場の復旧後、どうなるかは買い手企業各社の動向もあり、まだ分からない。また、サプライチェーンの進む方向は商品ごとに異なるが、少なくとも、これまでの延長線ではいかないだろう。
今、言えることは、そうしたサプライヤや競合他社の動きによる中長期的なサプライ市場の動向と、自社のサプライチェーン戦略の方向を見極め、適したサプライチェーンを築かなければらないことが各社の調達・購買部門に共通したこれからの課題ということだ。(中ノ森清訓)
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