日本の原子力政策を訴える――法曹家の卵が原発の行政訴訟を起こした理由(4/4 ページ)
福島第一原発の事故後、国の原子力政策にストップをかけようと行政訴訟を行った江藤貴紀氏。東京大学法科大学院を卒業し、司法家への道を歩み始めたばかりの江藤氏は、どのような思いから訴訟するに至ったのだろうか。
――訴訟では、「国が原子炉を許可する過程が違法であり、よって無効である」と主張されるというお話しでした。福島第一原発の事故は津波の予防策をとっていなかったから起きたわけですが、そこを根拠とされるのでしょうか。
江藤 この点については2段構えで主張するつもりです。まず、「福島第一原発の原子炉設置許可に当たって、津波の可能性も当然考慮すべきであった、と法が要求している」というのが、第一の主張です。
そして、「法律レベルでは津波の可能性を原子炉設置許可に当たって考慮する必要がないとしても、原子炉というのは非常に危険なものであり、爆発すれば我々の居住、移転の自由が脅かされるので、もしそんな津波の危険性を考慮しないで原子炉に設置許可を出せるような法律があったとしたら、それは憲法違反の法律だ」というのが私の第二の主張です。
原子炉設置許可の過程については、今までは「原子炉を設置する上での基本的な構造についてさえ審査すればいい」というのが行政のスタンスで、裁判所の判例にもあります。そのため私は、「もしそういう法律レベルの解釈が正しいものなら、そんな法律は憲法違反だ。よって無効だ」ということです。
――原発に関しては過去にいくつも訴訟が起きていますし、専門的な知識をお持ちの方もたくさんいると思いますが、そうした方々からのサポートは要請しないのでしょうか。
江藤 最初の質問でお答えしたように、何人かの科学者の方からの助力はいただきたいと考えています。また、行政訴訟に大変詳しい神戸大学名誉教授の阿部泰隆さんという弁護士の方がいらっしゃるのですが、ひょっとしたら彼の手助けを受けるかもしれないとも考えています。
――先ほどコストの心配はあまりないとおっしゃいましたが、時間の大半をこの訴訟につぎ込まないといけないという中で、サポートチームのようなものは考えているのでしょうか。
江藤 時間やお金がそこまでかかるとは思っていません。私としては、今年司法試験に通っていたのなら、普通に弁護士をして、自分でお金を稼ぎながら訴訟を続けていくつもりです。
――訴訟の被告は誰になるのでしょうか。
江藤 被告は国になります。ただ、そこで争われるのは原子力安全・保安院の判断の妥当性です。
――裁判が始まるとおっしゃった6月23日には具体的に何が行われるのでしょうか。
江藤 6月23日には、口頭弁論期日というものがあります。裁判官の面前で、私の側が提出した訴状に基づいて意見を述べて、被告の国の側もやはり前もって準備した答弁書に沿って意見を述べてくるということになります。
――福島第一原発の事故が起きた時、何千人もの住民が突然に家を追われ、仕事をなくしました。政府は強制避難させたわけですが、これに関してどのようにお思いですか。また、訴訟でそういうことは何がしかの議論になりますか。
江藤 今回の訴訟に関して、その点は特にポイントにはならないと考えます。政府が福島の方々を住居から強制退避させたことについてどう考えるかということですが、この点に関して私は政府を非難しません。むしろ、避難させることが政府の責務だと思っています。なぜなら、所有している情報をもとに、国民の最低限の生命、健康を守るということは政府の義務と考えるからです。
――相手が巨大であるということについてどのようにお考えですか。
江藤 原子力発電に関しては、世論の風向きが3・11以降まったく変わっていて、世界は以前の通りではないと思っています。であるので、以前ほど強い相手と戦っているとは思いません。
――東京電力がまったく機能しなくなった場合、日本のためにならないのではないかと思うのですが、公益の問題についてどのようにお考えですか。
江藤 この点に関しては私もそう思います。東京電力は電気事業者として、関東地方の住民に電気を供給するべき義務を負っているので、原子力発電より弊害が少ない方法、例えば太陽光発電なり、天然ガスによる火力発電なり、風力発電なり、何がいいか分かりませんが、ほかの方法で電気を供給し続けていただきたいと思います。
――過去の原発についての訴訟の判例などは研究されているのでしょうか。
江藤 一通り代表的なものは読んでいると思います。例えば、伊方原発訴訟やもんじゅ訴訟、福島第2原発1号機設置許可処分取消訴訟の最高裁判例などです。
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