上司の間違った命令には従うべきか?(2/2 ページ)
先日、東京電力本店からの命令に背いて海水注入を続けた福島原発の吉田昌郎所長の処分が話題となった。これほどの大事件でなくても、現場の判断を優先させべきか、上司の命令に従うべきかで迷ったことがあるビジネスパーソンは多いだろう。この問題はどのように考えればいいのだろうか。
キーになるのは「自己規律」
こんな古くて新しい問題に新たな解を示してくれるのが、筆者のビジネススクールの恩師、スマントラ・ゴシャール教授です。
名著『個を活かす企業』では、個々の社員の起業家精神を発揮せしめながら、同時に組織としての統制を揺るがせない経営が可能なことを証明しています。
その際にキーになるのが「自己規律」。「ルールよりも、社員の内発的な動機に基づく自らの行動の制約こそが、一見相反する2者を統合するカギである」とスマントラ先生は主張しているのです。
そのためにも、「明確な業績基準を設けて」「情報の公開を義務付ける」「しかも同僚との比較を行う」という、自己規律を醸成するプラットフォームを整備するのがトップマネジメントの役割である、と続きます。
思えばスマントラ先生は、モノゴトを「あっちか、こっちか」の二律背反、もしくは「ORのフレーム」では決してとらえていなかったような気がします。むしろ、「起業家精神も自己規律も」、はたまた「思考も行動も」、「感情も論理も」という、「ANDのフレーム」を持っていたことが、彼を世界的なマネジメント研究の権威にしていたのでしょう。震災後の報道を見るに付け、そんなことが頭によみがえってきました。
政府機関や東京電力の幹部など、あまりにも無責任な言動に、正直言って怒りを禁じ得ないのは、多くの人が共有する感情でしょう。
ただ一方で、「巨大な官僚機構にいる人に、主体性を期待するのは無理なのかもな」と思うのです。国会で詭弁をろうしてまで自己保身を計る人に、「ふざけるな!」と怒るのは簡単ですが、そう言っても何も解決しないのでむしろ、「このような人にも主体性を発揮せしめるためには、何が必要なんだろう」と考えるのが、スマントラ先生が示してくれた方向でしょう。(木田知廣)
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