何が世界経済を変調させたのか?:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
米国債の格下げを機に、世界の金融市場が大荒れとなっている。この状況をもたらせた根本的な原因は何なのか。デマンドサイドとサプライサイドから分析した、ゲイビン・デービス氏の意見を紹介する。
デマンドサイドでは
次に世界経済のデマンドサイドに関わる要因を見て見よう。ここ数カ月というものマクロ経済政策は引き締め基調にある。そしてその一部は想定外だった。
米国では連邦政府の財政政策が非常に注目を集めたが、今年の政策と去年の政策の間にはほとんど変化はない。しかし実際には、今年の財政で最も変わるのは、連邦政府あるいは州政府などの支出が削減されることだ。これが今年第1四半期、第2四半期を通じてGDPを1%押し下げた。英国では財政支出のカットはGDPの2%に及ぶし、欧州周辺国の緊縮財政の影響はさらに大きい。
1年前、先進国が財政支出を膨らませる時代はもう終わったと思ったが、2011年になってこれほどの緊縮が行われるとは予想していなかった。政府というものは、財政上で問題が起こると短期的に財政を引き締めで対処する。しかしどうやって長期的に持続可能にするかという問題を解決はしない。これは完全に間違っているが、しかし政治家は同じことをする。近い将来にこうした傾向が変わるとは考えにくい。
さらにここ数週間というもの、米国やユーロ圏では政策的失敗のおかげで苦しんでいるが、このために金融業界に「ストレス」が生まれ、信用保証料率が上昇している。これによって、ECB(欧州中央銀行)やFRB(米連邦準備理事会)がQE2(量的緩和第2弾)の「出口」を模索した時よりも金融環境がタイトになってしまった。金融がタイトになってどうなるかはまだ分からないが、米国の消費者信頼度は30年ぶりの低水準となったし、企業活動の数字もあちこちで下がっている。
最後に取り上げる要因(これが最もしつこいということになる可能性がある)、西欧諸国における企業の債務返済問題である。これによって家計は石油や政策のショックに耐えうる力が弱くなる。一時的な衝撃を受けたときに、家計は貯蓄に手をつけるのではなく、消費を減らしてきた。この結果、消費の減退が世界的な景気停滞の主たる要因となってきた。
リチャード・クー氏が言ういわゆる「バランスシート不況」である。日本を除く世界が経験してきた戦後の不況とは異なる。しかし日本と同じように慢性的でしつこい需要不足である。現在の欧米の政治状況から考えると、この問題を解決するのは極めて難しいということになるかもしれない。
日本政府はどのように需要を生み出せばいいのか
以上が、デービス氏の見解だ。さて日本の状況はどう考えたらいいだろうか。問題は、日本経済における需要不足。だからこそバブルが弾けて以来、政府は公共投資にカネをつぎ込み、結果的に国債が積み上がってきた。以前だったらこれで景気が浮揚したはずだが、今の日本では公共投資が次の投資を生み出すということにならない。最終需要が不足しているからである。そしてその状況は今も基本的に変わっていない。
一方で財政再建は待ったなし。景気を浮揚させるために財政支出を増やすのはもはや玄海に来ている。デフレを脱却し、経済成長を実現できれば財政再建の道も開けるだろうが、そのためには需給ギャップを埋めて、需要を増やす手段を講じなければならない。それが何か。ポスト菅に向けて民主党内でさまざまな動きがあるが、どの「候補者」の意見を聞いても、その一番大事なポイントが見えてこないのが残念である。
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