震災後「利用客ゼロ」からの再起――はとバスのいま:嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(5/5 ページ)
東日本大震災以降、福島第一原発の事故の影響で観光業界は大きなダメージを受けている。東京観光ツアーの最大手・はとバスでは、3月12〜31日の利用客がゼロという事態に陥った。震災から5カ月、回復基調にある同社ではどのような手を打っているのだろうか。
課題は若者や外国人需要の取り込み
現時点では震災対応が中心になっていると思うが、10年後を見すえた場合にはとバスにとっての「戦略課題」は何なのだろうか?
「弊社は“製販一体”、つまり基本的には重厚長大型の業態だと自覚しています。団塊の世代のお客さま(平均57〜58歳)の占める比率が高く、私たちが提供する安・近・短な商品を買ってくださっています。でも、10年後となるとそうはいかないでしょう。
また、今やインターネットが全盛ですが、今後そうしたフットワークの良い分野があまりに大きくなるようなら、アナログの重厚長大型のままではキツイな、と感じています。そういう意味では、重厚さとフットワークの良さのバランスをとり、若い世代と外国人を顧客層としていかに取り込んでいくかが、今後重要な戦略課題になってきます」
女子力アップツアーなどのような、異業種とのコラボによる若い世代向けの商品開発は、社内の経営資源の不足分を補完しつつ、新しい顧客ターゲット層を開拓する施策ということで、はとバスでは非常に重視している。ほかにも、乳幼児向けのビジネスを展開している企業と組んで、若い母親に悩みや子育てノウハウを共有してもらうコースを企画したりもしているという。
「長年にわたって熟年中心だった顧客層を、若年&外国人中心の顧客層へとシフトさせること」を戦略課題と位置付け、中長期的にそれを実現していこうとしている松尾さん。
原発問題が不透明な状況の中、外国人観光客数も低迷が続き、現時点から見る限り、決して先行きは明るいなどと楽観できるような状態ではない。しかし、はとバスを愛してやまない社員たちが、社長以下全社一丸となって難局に立ち向かうその姿を見ていると、そうした困難もやがてはクリアしていけるのではないかという気がした。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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