日本人製作のIKEAのベストセラーチェア『ポエング』、“清貧”デザインの秘密:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
IKEAで30年以上世界的なベストセラーとして君臨してきた『POANG/ポエング』。そのデザインをした中村昇氏のセミナーに出席した筆者は、日本製品に何が足りないか気付いたという。
日本企業が作ってきたもの
さて非公開企業IKEAは、2010年に創業後初の決算を発表している。それによると2010年8月期の売上高は235億3900万ユーロ(約2兆4925億円)、当期利益は26億8800万ユーロ(約2846億円)。利益率11.4%はニトリ(9.8%)を上回り、無印良品の良品計画(4.6%)の倍以上。ディオールの今年上半期は13.4%だから、IKEAはブランドビジネスに匹敵する利益率なのである。
ひるがえって「世界で作り、世界で売る」IKEAと同じビジネスモデルの日本の自動車も家電も最終利益は軒並み1〜2%である。「安くて丈夫」はどちらも同じ。だが今の日本企業の製品にはプレミアムがなく、IKEAには差別化や独特のスタイルがある。IKEAがコモディティ化をまぬがれるのはなぜか?
中村さんは「清貧」というキーワードを挙げる。
「モノはどうしても増えます。自動的に増えて人間が窮屈になる。豊かな暮らしをするにはスペースが必要。だから好きなものをできるだけ厳選して選び抜く。清く貧しい。それがいちばん豊かな生活なんだと思うんです」
ポエングは大量生産品だが常に「選ばれてきた」。
“清貧”作りへの回帰
中村さんの恵庭市の自宅の居間には、2脚の椅子とピアノのトップ板を使ったダイニングテーブルがあるという。椅子はもちろんポエング。1978年発売の2脚が33年を経た今でも現役で使われている。
「IKEAの創業者のイングヴァル・カンプラードさんもその時から使い始めました。彼は100キロくらいあるから、ぼくが座ってもこのくらいしか沈まないけれど、床に突くほど沈みこむでしょう」
1970年代からの大量生産、大量消費の果てに私たちの暮らしはモノであふれた。部屋には機能満載の家電やグッズがあふれ、会話は音声や電子音でかき消され、住みにくさを解消するために買ったモノで住みにくくなり、人を招けず、家人は小さく暮らす。これが日本製品がしてきたことなのではないか。
だが今、なかなか買わなくなった消費者は、必要な“清貧(製品)”だけを選ぶ。永続性を求める。一方、日本企業は1970〜1980年代と変わらない価値観で、比較対象されるだけの製品をあふれさせている。
「清貧は禁断症状が出るかもしれません。いきなりは難しいかもしれない。半年くらいモノの無い暮らしをすれば、その生活の素晴らしさが分かります」
ポエングから見えてきたのは製品作りの原点。部屋を住みにくくする製品開発から、もう一度“清貧”に返る時ではないだろうか。
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