高まるユーロ解体リスク、回避のポイントは3つ:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
英エコノミスト誌が最新号で懸念しているユーロ圏解体のリスク。それを避けるためには3つのことがポイントになるという。
回避のポイントは3つ
その意味で今週は、世界が固唾をのんでユーロ圏のリーダー、ドイツのメルケル首相、フランスのサルコジ大統領、それにバローゾ欧州委員会委員長、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁たちの出方を見守ることになる。ユーロ圏を崩壊させることができない以上、やることはある意味で決まっている。
第一はECBの役割を「拡大強化」して、市場の動揺を鎮めること。それによって時間を稼ぐことが必要である。
第二に、ユーロ共通債の発行によって、財政が厳しい国が安いコストの借り入れをできるように余裕のある国が助ける(要するにドイツがイタリアを助ける)仕組みを作ること。
第三は、ユーロ圏を統一通貨だけでなく財政同盟にまで導く道筋を明らかにすることだ。もともと通貨だけ統一して財政政策は各国に任せるというところに無理があった。財政赤字はGDPの3%以内、国債の残高はGDPの60%以内という規則はあっても、それを「強制」する力がなければただのお題目である。
もっとも先へ進むしかないと言っても、ハードルは高い。EU本部のあるブリュッセルでは、各国の予算についてEUが承認するという手続きを取るという考え方もある。しかしそうなると、それこそ国家主権の制限であるというだけでなく、民主主義的統治はどうなるのかという問題もある。
各国の議会から予算を最終決定する力を奪ってしまえば、議会は政府に対する大きな力を失うことになる。日本でも菅直人首相が結局のところ予算関連法案を人質に辞任を迫られたのは記憶に新しい。議会のレバレッジが失われれば、結局は「民意」を発揮する場がなくなり、民主主義は形骸化しかねない。EU、少なくともユーロ圏は、巨大な国際官僚機構によって統治されることになる。
また財政同盟あるいは統一財政というからには、豊かな国から貧しい国へと富を移転する仕組みも必要だ。日本国内の地方自治体で国を経由して富を移転しているのと同じことである。国と国でこれを行おうとする場合はもちろん国民の合意が必要である。しかし、豊かな国の国民は、自分たちが稼いだものを他人になぜ与えなければならないのか、という感情論からなかなか抜けられまい。ドイツなどは、そこまで行くとメルケル政権が倒れる可能性もある。
それでもドイツとフランスは手を携えて前に進むしかないと思う。欧州の正念場はまだまだ続く。
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