明るいクリスマスを迎えられるか? EU統一財政案の行方は:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
今週行われるEUのサミット。そこで提案されるのは現在の統一通貨をさらに一歩進めて、統一財政に近付けようという案である。これがまとまらないと、年末にかけてまた金融市場が混乱するかもしれない。
根本解決のためには財政再建しかない
その代案としてドイツが主張するのは、債務にあえぐ国が緊縮財政政策をとることで財政再建を進めることである。根本解決のためにはそれしかなく、債務危機の克服は短距離走ではなくマラソンだとメルケル首相は語った。そのためにEUがユーロ加盟国の財政をチェックする機構を作ろうと主張する。各国の予算は各国の政府が組むが、それぞれの国の議会が承認する前に、EUでチェックするというのである。
問題は、これがギリシャやイタリア、スペインといった国で受け入れられるかということである。言ってみれば、財政自主権が半分失われることになり、緊縮政策を「押しつけられる」国民に不満が鬱積することは間違いない。さらにEU加盟国だがユーロを使っていない国は、この規定ができればユーロ加盟を一段と躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない。それはユーロ拡大を目指すドイツやフランスにとってはマイナスだ。
こうした措置をとるためにはEU条約の修正が必要だ。しかし、ユーロ加盟17カ国だけでなく、EU加盟27カ国の承認ということになると、気が遠くなるような時間がかかるかもしれない(中には国民投票が必要な国もあるからだ)。だからこそフランスや、ユーロには加盟していない英国も、ECBの積極活用、共通債を主張する。
先週は、米国、欧州、英国、日本、カナダ、スイスの6中銀がドル資金の借り入れコストを引き下げた。これによって欧州の銀行を中心にドル資金が調達しやすくなり、結果的に先週1週間は、世界同時株高になている。国債も落ち着いた動きになっているが、こうした動きはあくまでも今週のEUサミットで腰の座った対応が発表されるということが前提だ。
IMF(国際通貨基金)はG20各国からの資金融通を受けて、手元資金を増やすという方向にある。しかし欧州でのEFSF(欧州金融安定基金)の拡大はなかなか進まない。欧州が財布のひもを緩めてくれればと期待していた中国も「外貨準備3兆2000億ドルはそんなことのために使えない」と素っ気ない返事だ。
今年のクリスマスが暗いクリスマスになるのか、それとも何とか希望をつなぎながら新しい年を迎えられるのか、正念場は今週である。
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