エキナカからトイレまで――日本ならではのデジタルサイネージとは:中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(2/2 ページ)
ディスプレイ業界、通信・ネットワーク業界、広告業界。この3つが日本の大きな可能性、デジタルサイネージに熱い視線を送っている。
たくさんある日本的なサイネージ
他にも日本的なサイネージはたくさんある。カラオケ。客が入っていても3分の1の時間はカラオケに使われていないという。歌っていない間のディスプレイは絶好のCMメディア。密室サイネージだ。
そしてパチンコ。最近のパチンコ台は中央にディスプレイが埋め込まれていて、アニメや特撮ドラマを題材にしたタイアップ機や、著名芸能人が監修またはモチーフとするものもある。
ゲーセンもそう。スロットマシンは筐体が動画メディア化している。パチスロ「俺の空」や「バーチャファイター」は、数字やチェリーが回る周囲が皆動画を表示するスクリーンとなって、一体としてエンターテインメントを提供している。
コインを差し込んで、たまったコインを穴に落とすコイン落としも、正面がスクリーンとなっていて、右から左に走る貨車にコインをタイミングよくぶつけるとルーレットが回転、それでコインをゲットできる仕組み。知らぬ間にデジタルな遊びに変わっている。
セガ「トイレッツ」。おしっこでゲームができる! おもしろ電子POP!「溜めろ! 小便小僧」おしっこの量を測る。「落書き早消し! 何秒で消せるかな?」おしっこで落書きを消そう!「ぶっかけバトル!鼻から牛乳」前におしっこした人と対戦!
面白くクダラナイことを考えるのは私でもできる。だが、それをホンマにやってまう、というのが日本のポップ。システムを作って、コンテンツを用意して、実際に便所に設置して実用に供するのだ。経営会議でどんな議論を経て資金を投入してチームを作ってスケジュール管理して実現に至ったのだろう。かつて世界市場を凌駕した日本ゲーム界のDNAがサイネージでも何かやらかしてくれると期待させる。
デジタルサイネージコンソーシアムが行った実験もその流れだ。秋葉原駅構内に置かれたディスプレイの前に立つと、映し出された自分が「初音ミク」に変身させられてしまう。うれしくなって足を止めると、「献血に行こう」という呼び掛けが表れる。赤十字社と連携したポップ献血キャンペーンだ。結構な数の献血が集まったのは、「ミク」サイネージとアキハバラの土地柄との相性か。
大阪・千日前「だるま」。巨大なヒゲおじさんの立体看板の下にある電子看板「だるまビジョン」では、浪速のロッキー・赤井英和さんが「二度づけ禁止!」と訴える。地元民は、おっ串揚げ屋か、と認識する。大阪の串揚げ店ではソースの壺が共用で、食べかけを二度つけるのはご法度であることが共有されているからだ。けったいな、でもナルホドとうならせるコテコテのローカルサイネージ。
ほかにも、赤ちょうちんがしゃべって光ったり、制服の裏地がサイネージだったり、「痛車」に描かれた萌えキャラを動画にしたり、そんなクールジャパン的な空想もできる。てゆーか、実際そーゆーのを私は開発してみたい。
ケータイ、自販機、カラオケ、これら「ものづくり」の力=技術力と、「ポップなコンテンツ」=文化力のドッキングが威力を発揮。世界に打って出るには、この「ハード」と「ソフト」を合体した力が必要だ。その両方を持っているのが日本の強みなのだ。そして「ホンマにやってまう力」、つまり「鉄の意思」を掛け合わせたところ、3つの光が交わる点に、日本型サイネージの明るい未来が展望できる。
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