財政危機を回避するために……政治家に必要なこととは?:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
日本に限らず、政治の漂流が経済の停滞につながっている事例が世界中で見られる。財政危機を回避するために、政治家がやるべきこととは何なのだろうか。
国民に実態を説明することが政治家の役割
膨大な借金を抱える日本は、野田首相が「財政再建は待ったなし」だとして消費税増税を打ち出しているものの、法案として成立させられるかどうかは不透明だ。何と言っても小沢一郎元代表は反対の意思を明確にしているし、自民党や公明党が与野党協議に乗ってこないからだ。
しかし、せっかく財政再建を打ち出した民主党も、そのほかの政策に関しては自民党時代よりも世論に引きずられているように見える。例えば、財政再建のためには増税もさることながら支出の削減が絶対に必要だ。その支出の削減の中で、最も重要なのは社会保障の給付制限なのである。それが金額的に最も大きいからだ。選挙が目の前にちらつけば、社会保障の削減などは口に出せない。
「増税した分は社会保障を充実させるために使う」などと実体のない説明は、国民の目をそらすものである。簡単な話だと思う。増税分を社会保障に回したら、財政再建はどうなるのかということだ。財政のためにはさらに増税しなければならないのは明らかであるのに、それを言いたくないばかりに長期試算の公表を渋ったあたりは、日本の政党が抱えるポピュリズム的悪弊が表面に出たということだ。
昨年、日本の貿易収支が赤字になった。この赤字の金額は原発事故に伴うエネルギー輸入(原油、天然ガス)の増加分とほぼ同じだという。東日本大震災によって、サプライチェーンが破壊され、そのために生産が落ちた。またタイの洪水で部品供給が滞ったなど、一時的な理由もある。しかし歴史的円高の中で、企業は防衛のために海外生産の比率を高めている。このため今後も貿易収支の赤字が続くと見る向きは多い。
昨年は貿易赤字を所得収支で補うことができたが、貿易赤字はさらにふくらむことを考えればそう安閑としてはいられない。もし日本の経常収支が赤字になったら、その時は日本の国債が売り叩かれるときである。こうなったら金融機関に巨額の損失が出るだけでなく、政府の資金繰りがつかなくなるときでもある。大げさに言えば、毎年発行している40兆円を超える国債の金利がもし2%上がったら(現在は1%弱)、それだけで支払い金利は8000億円も増える。
2年か3年か分からないが、猶予期間はあまりない。今、必要なことは、財政再建の行程表とともに、国民に実態をよく説明することなのだ。その結果、選挙に負けるとしても、少なくとも政治家あるいは政党として、国が難破することを防ごうとしたという実績は残る。歴史に名を残すことが大事だというなら、国民に真実を告げる勇気が必要だ。
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