衰退する音楽産業、ハードへの投資でもう一度ブームを:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
音楽市場が縮小する中、一人勝ちしているAppleのiTunes。しかし、iTunesを通してのみ音楽を聴くというスタイルの広まりは、音楽の楽しみを圧縮させているのではないかと筆者は主張する。
デジタル化で失った楽しみ
1つは“録音の楽しみ”。マルチトラック・レコーダーで録音マニアだった浅田さんには“巻き戻したくない思い出”がある。
「女の子から『私の好きな音楽を聴いて』とカセットをもらいました。ところが聴くと……『もうちょっと良い音で録音してくれればよかったのに』と(笑)」
そんなことあったな。私も数本引き出しの奥にある。ダウンロードで楽になった分、録音スキルを磨くことはもはやできない。残念なテープがもらえないのが残念でもある。
2つ目は“外部入力の喪失”。ラジカセは1990年代になって、外部入力端子が廃止された。プレーヤーや楽器をつなげなくなり、ボックス単体で聴くようになった。良く言えば“完結性”、悪く言えば“閉鎖性”が高まった。機器をシステムで拡張させる考えが失われた。これは今のデジタルオーディオにも通じている。さらに浅田さんのひと言にハッとした。
「近ごろ、音を出すことに厳しいですよね」
近所からピアノの音も聴こえなくなった。子どもの部屋からもオーディオがガンガン鳴らなくなり、「ボリューム下げろ!」とカミナリを落とす親もいなくなった。みんなヘッドフォンで小さくなって聴いている。
デジタル時代に劣化したのは音質だけではない。楽しみ方も劣化した。
ひとりひとりがハードに投資しよう!
提案がある。音楽産業をみんなの力で蘇らせよう。それはハードへの投資である。
レコードプレイヤー、カセットウオークマン、CDプレイヤー、iPodやスマートフォン。何か好きなハードに投資する。投資はゼロ円でできるものから(iTunesへのCD読み込みモードをロスレス設定するだけで音質は格段に良くなる※)、190万円かかるものまで(アキバのオーディオ店の店頭にあったスピーカー『HyuGer Autograph』の値段)。
もちろん英語で言うBoom Box(大型ラジカセ)もいい。みんなが“自分の音楽スタイル”で楽しむというブームを起こすのだ。
私の夢はアキバのオーディオ店からタダでもらったソニー『CFS-D7』(1979年)を修復すること。高性能だがとりわけもろかったので、修理費用は結構かかってしまうかもしれない。ラジカセに加えて、在りし日の“所得倍増ブーム”も再来してくれないと、懐には厳しそうだ……。
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