乾電池不要のリモコンカーを創ろう――タカラトミー「EDASH」に見る商品開発の本質:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
東日本大震災の被災地におもちゃを送ろう。そのとき、ふと気がついた。「これ乾電池がいるんじゃない?」
子どもだけでなく、パパもママも夢中にしよう
EDASHには2つのシリーズがある。対象年齢が6歳以上のEDASHと3歳以上の「ぐるぐるドライブ」だ。さらに隠れたターゲットもいる。前者はパパ、後者はママだ。
「EDASHには『NISSAN LEAF』『Toyota PRIUS』『Honda CR-Z』『Honda FIT HYBRID』の4つがあります。車種の選定ではエコカーのトレンドを踏まえつつ、子どもとお父さんの人気車種を調査しました。2人で共謀して一緒にエコカーを買おう!(笑)という狙いです」(松野さん)
「ぐるぐるドライブには、働くクルマで一番人気の『トミカ パトロールカー』と『トミカ しょうぼうしゃ』、親しみやすいキャラクターの『ポケットモンスター ピカチュウ』と『カーズ ライトニング・マックィーン』を採用しました。特にピカチュウはオリジナルデザインです。クルマの知識がないお母さんでも選べるラインアップになりました」(山本さん)
赤外線操作には2バンドを用意し、親子でのレースなど2台目需要に応えるのもニクい。「非常用持ち出し袋に入れて」という保管提案もおもしろい。
パッケージには、電気がどう作られるのかという解説もある。きっと子どもは「電気ってどうやってできるの?」と聞いてくるだろうから、火力発電や水力発電、原子力発電も説明できるように準備しておきたい。
このようにRCカーとしてのアイデアだけでなく、エコや科学へのこだわりも満載。もともと乾電池不要のおもちゃというスタート地点があったとはいえ、EDASHには「ポスト震災商品」の装いがある。
商品開発は“ポスト震災”時代へ
震災発生から今日まで、マーケットはめまぐるしく変化してきた。震災直後には食糧不足、トイレットペーパーや乾電池などが売り切れ、ガソリンも品薄になり自転車が売れた。その後の電力不足は節電とクールビズでこらえ、駅や街の暗さにも慣れた。
店舗にLED照明が広がり、住宅には発電蓄電機が提案され、自然エネルギーへの発電投資も進み、会社は「BCP(事業継続)」を検討した。防災用品の品薄はずっと解消されなかった。多くの商品に「防災」「発電」「耐震」がついてまわった。
だが1年が経ち震災の熱狂が落ち着いてきた。商品開発にも本質が戻ってきたのだ。
「買う人たち、遊ぶ人たちの目線が、どう変わるか見ていくことが大切です。電力不足によって、身の回りにハイブリッドカーや電気自動車が増えてきた。子どもたちはそれを見るし、親も買いたいと思う。それを商品に反映する。それにプラスして『こんなの見たことない』という企画視点を融合する。誰にも受け入れられる部分と尖った部分の融合。これが理想ですね」(山本さん)
「震災クレイジー」は必ずしも悪いことではなかった。だが、いつまでもそれだけではいけない。防災やエコへの親和性を保ちつつ、おもちゃには「直感的に遊べる」「感情移入ができる」という商品の本流本質を溶け込ませる。EDASHには“ポスト震災”の走りがある。
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