海外では圧倒的、音楽ビジネスに浸透するアニメソング:アニメビジネスの今(4/4 ページ)
AKB48が席巻している、昨今の日本の音楽シーン。しかし、長期的に見るとアニメソングも大きな位置を占め続けており、海外からの著作権収入では他ジャンルを圧倒しているのである。
驚異のアニメソング『残酷な天使のテーゼ』
著作物使用料の分配額が多かった作品に与えられるJASRAC賞は、その年の人気の映し鏡なので年間ベストテンに入るのは流行している曲が基本である。従って、年をまたいで上位にランクインすることはレアケースで、ましてや何度もベストテンに入るということは常識的には考えられない。
ところが過去4回にわたりベストテンにランクインし、今年も入りそうな曲がある。それは『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌『残酷な天使のテーゼ』だ。『残酷な天使のテーゼ』は少なくとも放映当時の1995年には上位に入らなかった(2000年まで上位3曲以外は未発表)。
しかし放映から12年経った2007年に突如7位にランクイン。これは、明らかに新劇場版第1作『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序』のヒットによるものだろうが、その勢いは衰えず、翌年も8位につけた。そして2009年に新劇場版第2作『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破』が公開されると2位へと躍進する。初オンエアから14年後に2位、これだけでも驚異である。
そして、2010年のJASRAC賞を見て音楽関係者一同肝をつぶしたのが、何と『残酷な天使のテーゼ』が1位になっていたことだ。登場から15年を経た楽曲が1位になることはJASRAC史上初めてのことである。2010年には映画公開もなかったので、余計その印象が焼き付いた。音楽業界の常識では「ありえないこと」なのである。
その『残酷な天使のテーゼ』であるが、2011年にはベストテン圏外に落ちた。だが、今年の秋には新劇場版第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』が控えている。再びベストテンに返り咲くのは必至であると思われる。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
関連記事
- 「アニメビジネスの今」連載バックナンバー
- なぜガンダムは海外で人気がないのか
30周年を迎え、お台場のダイバーシティではアトラクションも作られているガンダム。しかし、日本に比べ、海外ではそれほど人気はない。ガンダムに限らず、ロボットアニメが海外で受け入れられない背景には“フランケンシュタイン・コンプレックス”があるという。 - 制作量は日本の2.5倍でも……中国アニメーション産業の光と影
政府の強力な後押しによって、中国のテレビアニメの制作分数は2008年に日本を越え、現在では約2.5倍にもなっている。筆者は先日行われた中国最大のアニメフェア、杭州アニメーション・フェスティバルを訪れ、一躍アニメーション大国となった中国の内情を探った。 - 『コクリコ坂』が転機に!? 揺れるジブリのビジネスモデル
『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など、映画史に残る作品を数々送り出してきたスタジオジブリ。しかし今、その劇場オリジナルアニメ中心のビジネスモデルが揺らぎつつある。 - なぜジブリは国民的映画を創り続けるのか
『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など、映画史に残る作品を数々送り出してきたスタジオジブリ。世界の映画史におけるその位置付けを改めて確認し、何が今、課題となっているのかを探る。 - 悪人を倒せば世界が平和になるという映画は作らない――宮崎駿監督、映画哲学を語る(前編)
『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』など数々の映画で、国内外から高い評価を受けている宮崎駿監督。アニメーション界の巨匠が何を思って映画を作っているのか、どんなことを憂いているのかを語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.