細田守作品からNARUTO、海外勢まで――今夏劇場アニメの行方を占う:アニメビジネスの今(4/4 ページ)
年間を通じて最大の市場となる夏休みの映画興業シーズン。多くの劇場アニメが公開されるが、『おおかみこどもの雨と雪』や『NARUTO』、『メリダとおそろしの森』など注目の作品を取り上げ、その先行きを占う。
『メリダとおそろしの森』など、海外勢は?
ここまで日本の作品について述べてきたが、海外の作品はどうだろう。今夏だと、ピクサーの『メリダとおそろしの森』、ドリームワークスの『マダガスカル3』、日本×香港×中国合作となる『マクダルのカンフーようちえん』の3本が注目だが、本命はやはり『メリダとおそろしの森』だろうか。
表Aは2000年以降のピクサー作品の日本での興行収入だが、表Bの北米興行収入と違ってかなりデコボコがある。北米では『トイ・ストーリー3』(2010年)が突出する形となっているが、2億ドル(約160億円)を下限として1.5〜2倍程度のレンジで収まっている。
それに対して、日本では一番少ない『カーズ』(2006年)とトップの『ファインディング・ニモ』(2003年)では5倍もの差が付いている。米国では日本におけるスタジオジブリのように強力なブランドであるピクサーであるが、日本人の趣向性の違いもあってか作品ごとにかなりバラツキが生まれている。
『メリダとおそろしの森』は「中世スコットランド」「ファンタジー」「王女」「魔女」といったテーマやスタッフのキャリアなどから考えると、30億〜40億円の興行収入が予測される。来年は『モンスターズ・ユニバーシティ』、その後に『ファイディング・ニモ2』の可能性もあるピクサーの“打率10割”は当分続くだろう。
何だこれは? 『放課後ミッドナイターズ』
8月最後の週に公開予定の『放課後ミッドナイターズ』の試写を見たら驚いた。ポップな作りのギャグアニメ。聞けば全編CGのこの作品を監督した竹清仁監督は博多在住であるという。デジタルの制作環境がなければ成立しない作品であっただろう。
映画『放課後ミッドナイターズ(AFTER SCHOOL MIDNIGHTERS)』予告
『レイトン教授』『ダンボール戦機』といった作品で知られるレベルファイブなどのゲーム会社を輩出している福岡県であるが、最近はアニメ制作でも注目されている。
ビデオパッケージが20万本以上売れた『Peeping Life』制作者の森りょういち氏はまだ29歳で、地元の大学を卒業し福岡にスタジオを構えている。また、自主制作ながら東京国際アニメアワードなど多くの賞を受賞した『フルーティー侍』を作り続けているハッピープロジェクトも福岡のスタジオである。
『放課後ミッドナイターズ』はその企画の面白さが認められアマゾンラテルナが資金を提供、配給をティジョイが務めている。この作品をきっかけに博多のアニメパワーが一挙に噴出するかもしれない。
番外編、全米が注目した『アベンジャーズ』
アニメではないが今後話題を呼びそうなのが『アベンジャーズ』である。マーベルコミックスの主要キャラクターが続々と登場するがオールスター映画であるが、これが北米で歴代興行収入3位となる大ヒットとなっている。現在6億ドルを突破したところで、1位の『アバター』(7億6050万ドル)は無理としても、2位の『タイタニック』(6億5867万ドル)にどこまで迫るか。
『アベンジャーズ』はマーベルコミックスの人気キャラが登場するということだが、日本で言えばかつての3本立ての「東映まんがまつり」に登場するキャラクターが1本の映画に登場するようなもの。例えば、『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『スラムダンク』が一緒になれば、それは見に行くだろう(どんなストーリーになるか想像はつかないが)。
『アベンジャーズ』やほかのマーベル作品、『トランスフォーマー』などを見ると、米国映画もだんだん日本化(コミック化)しているのではないかと思わせる。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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