「キャリアはある意味、行き当たりばったりでいい」――キャリア教育を再考する(4/4 ページ)
「キャリアデザイン」なる概念が矮小化する流れにあるように感じる。そこに「プロフェッショナルシップ」という新概念を持ち込んで、キャリア教育について少し考えてみたい。
プロとしての働く基盤意識「プロフェッショナルシップ」
野球の松井秀喜選手の母校である星陵高校野球部の部室には、次のような指導書きが貼ってあると聞きました。
「心が変われば行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」
これはまさに、一般のビジネスパーソンにもそのまま当てはまることです。冒頭、私は、キャリアは人の働き方・働き様・働き観に関することだと書きました。
そして、キャリアは「想い」を持った後の奮闘の結果、何かしらできてしまうものでもあると書きました。ですから、つまるところ、キャリア教育とは、日々の働くことに向き合う「意識作り」の啓育である――それが、私の今の認識です。
私は、プロフェッショナルとしての働く基盤意識を「プロフェッショナルシップ」と名付けています。
このプロフェッショナルシップ(II)は、各自の専門性能力(I)がうまく発揮されるベースとなるもので、具体的には、プロとして働く基礎力、態度、習慣、マインド、価値観が含まれます。また、I・IIによって成された行動や仕事実績、あるいは習慣といったものが、中長期に蓄積することにより、キャリアが形成(III)されます。
先の星陵高校の指導にあった「心を変える」とか「習慣を変える」の“心・習慣”の部分を、すなわち私は“プロフェッショナルシップ”と考えます。キャリア教育を施すにしても、各種の専門技能訓練を行うにしても、この基盤意識の醸成をないがしろにしては、その効果が限定されるでしょう。また、効果がゆがむことすら起こりえます。
キャリアデザイン研修なるものの矮小化問題は、キャリア形成の部分だけを切り出して、基盤意識の部分に手を入れることなく、技巧的に取り装った研修メニューのみが施されることに原因があります(これは技能訓練にも同様の問題があります。だから、技能でっかち、知識でっかちの人間ができあがる)。
私は、キャリア教育はそれのみを切り出すのではなく、プロフェッショナルシップという基盤意識を醸成するプログラムの一部としてそれを扱うことが最も自然であり、生き生きとした効果が出ると考えています。
プロフェッショナルシップという概念の具体的な切り分けを、私は次図のように考えています。
- 自立性とは何か
- 自律性とは何か
- 自導性とは何か
- 指導性とは何か
- 協働性とは何か
こうしたことを腹で理解して、原理原則イメージとして意識の基盤に置くこと、その文脈の中でキャリア形成をとらえる――私の展開しようとするキャリア教育の考えはそういうものです。
いずれにしても、ビジネス社会が複雑化するにつれ、働く人びとの漂流観、喪失感、不安感、倦怠感は増し、同時に不正や不祥事などモラルハザードの問題も増しています。働き方・働き様・働き観にまつわることが混迷している状況下、「働くこと」の教育は、もっともっと切磋琢磨されたサービスが多角度で立ち上がり、世の中に提案されることを当事者として願っています。(村山昇)
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