ビジネス書+ライトノベル=“ビジネスライトノベル”の誕生:ビジネスノベル新世紀(4/4 ページ)
ビジネス書で小説形式だったり、表紙にキャラクターのイラストを使用したりしている作品が登場している一方、ライトノベルでもビジネスをテーマにした作品が登場しています。そうした“ビジネスライトノベル”とでも言うべきジャンルが登場している背景には何があるのでしょうか。
ライトノベルのビジネス書化
経済小説という形でビジネス系テーマを取り込む動きが一般小説やミステリー小説で起きてきた流れは前回、簡単にまとめました。似たような動きはライトノベル側でも起きています。
書き手読み手ともに若い層が多かったことから、ライトノベルで本格的なビジネスものはあまり出てこなかったのですが、読者層が20〜30代に移ってきたからか、ビジネスをテーマにした作品が目立つようになってきました。ビジネス書のライトノベル化とは逆方向から起きた、ライトノベルのビジネス書化です。
内容は次回紹介することにして、これも今回は表紙の雰囲気だけ比較してみましょう。
まずは金融関係者からの評価も高いという『羽月莉音の帝国』。1巻、2巻ともに女子高生がポーズをとっています。
この表紙でビジネスに絡む内容とは誰も想像できないでしょうが、資金調達から会社設立に事業開発、提携にM&Aと、企業進化のプロセスをしっかり描いている佳作です。「巻末に参考文献がついているライトノベルなんて初めて読んだ」「マフィアとビジネスの関係とかいい勉強になりました」など一般小説でもあまり見ないタイプの感想が散見されます。
次に、エンジニア小説というだけでも珍しい『なれる!SE』です。表紙のキャラクターは中学生くらいの女の子にしか見えませんが、なんと主人公の上司という設定だそうでびっくりです。「こんな上司がいたら」という読者願望を反映させたのでしょうか。
前回、業界の“中の人”が書き手となったことで、経済小説が実務的な内容にシフトしたという話をしました。ライトノベルでビジネス系小説が成立するのは、本業を別に持っている兼業作家が多いことも一因ではないかと思います。
『羽月莉音の帝国』の作者である至道流星氏は、とある会社の社長をやっているそうです。ビジネスに限らず、現場の雰囲気というものは、やはり現場に立ち会った人でしか分かりにくい部分があります。取材しても、必ずしも描けるとは限らないものです。
その点、兼業で書いている人は普段仕事をしているわけなので、自分の日常を小説の舞台にできます。上司に怒られた悔しさから、プロジェクトが失敗した絶望感、遠くの方から聞こえてくる華々しい噂まで、上手く物語の形に載せられれば新しい話が仕上がります。
また、読み手も少なからず職業人がいるとなると、新しい共感の形が生まれることとなります。マンガ家が学生時代に打ち込んだクラブ活動を題材に漫画を描く、子どもが生まれたので子育てマンガを描くというパターンが良くあることを思うと、兼業作家の増加とビジネス小説の増加が同時に起きるのは自然な流れと言えるでしょう。
歴史上のできごとや特殊な事件ではなく、作者が直接に経験したことをテーマにした小説は私小説と呼ばれます。最近のビジネスノベル、特にビジネスライトノベルは、身近な日常のお仕事を素材にした“ビジネスライト私小説”と言えるのかもしれませんね。
次回は、前回今回のトレンド整理を踏まえて、具体的な作品構成や特徴についてまとめます(第3回「“読みやすい”だけじゃない! ビジネスノベルを知るための7作品」に続く)。
第1回 誠 ビジネスショートショート大賞
Business Media 誠では、ビジネスについての短編小説を募集しています。大賞受賞作品は、誠のトップページに長期間掲載されるほか、電子書籍としても出版されます。文字数3000字程度が目安ですが、それより長くても短くても構いません。詳しくは↓の応募要項をご覧ください。
お知らせ:「第1回 誠 ビジネスショートショート大賞」募集開始
関連記事
- もしドラだけじゃない! “ビジネスノベル”が増えているわけ
最近、書店のビジネス書コーナーでは、若い女の子が表紙になった物語形式の本が増えています。その背景には、ビジネス書側、小説側、それぞれの事情が関係しているようです。 - ライトノベルで農業を描いてみたらこうなった――『のうりん』著者インタビュー
現実と離れた題材が取り上げられることが多いライトノベル。そんな中、農業高校を舞台に大胆な筆致で農業に関わる人々を描いたライトノベル『のうりん』が静かに話題となっている。著者の白鳥士郎さんに、作品が生まれた経緯や反響について尋ねた。 - アニメ化は必ずしもうれしくない!?――作家とメディアミックスの微妙な関係
小説や漫画がドラマ化やアニメ化されることは、それが広告効果となって知名度が上がったり、売り上げが増えたりするため、一般的には作者にとって良いことだと思われがちだ。しかし、ライトノベル作家の松智洋氏は「必ずしも良いとは限らない」と主張、アニメ化された『迷い猫オーバーラン!』の経験を例にメディアミックスの功罪を語った。 - Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」:第1話 入社10年、突然のリーダー指名
中村誠、32歳。食品メーカーに勤める彼は、ある日、社内プロジェクトのリーダーに抜擢されます。ビジネスリーダーとして成すべきこととは? 部門横断型プロジェクトに対する心構えとは? 本連載では小説形式で、誠の成長を描いていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.