海外への外注増加で日本アニメは空洞化するか?:アニメビジネスの今・アニメ空洞化論その1(4/4 ページ)
アジア諸国への外注増加で技術移転が起こり、日本アニメの地位が脅かされるという話をしばしば耳にする。しかしデータを見ると、日本からの技術移転によって各国で自国製アニメが育ったという例は多くないようだ。
国策が功を奏した(?)中国アニメ
世界最大の人口を抱える中国はどうか。大人層で米国製が3作品で58%、日本製が6作品で86%、中国製が1作品で38%、子ども層で米国製3作品で83%、日本製が4作品で89%、中国製が3作品で96%となっているが、注目すべきポイントは子ども層で自国アニメがトータルで一番人気になっている点だろう。
『喜羊羊と灰太狼』が73%と断トツでトップ、さらに『クレヨンしんちゃん』の中国版とも言える『大耳朶図図』が7位、8位にもアニメではないが戦隊モノの『鎧甲勇士』といった中国製作品がランクインしているが、これは2002年以降の中国政府による国策(アニメ産業に対する支援制度、海外アニメの放送規制など)が子ども層に対して功を奏したからだろう。
一方、ボイス情報による「中国ネットユーザーにおける人気アニメ・キャラクター1〜25位」を見ると、放送規制前から日本アニメをたっぷり見ていた世代では日本アニメの人気が突出していることが分かる。この調査は上海、北京在住の中学生、高校生、社会人を対象に行ったものだが、彼らは1980年代以降、中国に輸出された日本アニメを見て育った世代であるせいか中国アニメを評価していないようだ。
しかし、ゴールデンタイムにおける海外アニメの放映規制以後にテレビを見始めたと推測される子ども層にとっては、日本や米国の作品に興味を示してはいるものの自国製作品が占める割合が1位となっているというのは、やはり政府の努力のたまもの(?)ではないかと思われる。
以上、中国における状況だが、「空洞化」の観点から見るとどうなのか。中国は韓国と並んで日本からのアウトソーシングが多い国なので、その可能性は大いにある。『喜羊羊と灰太狼』はどちらかというと正統的なCartoonに近いが、『大耳朶図図』は明らかに日本の影響が見られる。だが、それは技術移転というよりは、日本の人気アニメ(『クレヨンしんちゃん』)の設定を流用したと言った方が近い。
それも含めて技術移転という言い方もあるだろうが、日本アニメには結構毒の強いものが多いこともあり、中国国内向けに放送するために『大耳朶図図』はその毒を薄めているので、本家より面白さはダウンしているはずである。それにもかかわらず、それなりの人気を保っているのは、中国国内での自国製アニメの競争力が高まっているというより、やはり政府の規制のおかげではないかと想像される。
アジア7カ国生活総合調査には、残念ながら韓国のデータがない。そこで代わりにJETROのレポート「韓国におけるコンテンツ市場の実態(2011年3月)」を見ると、地上波テレビ局のアニメ放送時間で国内アニメの割合は2008年は38.4%。しかし、アニメ専門チャンネルでは14.6〜34.0%とその割合は低下する。
また、アニメ専門チャンネルの海外アニメの放送時間を国別にみると、日本が58.0〜77.4%と圧倒的。次いで米国が10.9〜27.4%となっており、この2カ国で市場をほぼ分け合っている状況だ。
国内アニメの比率は低くはないが、それは中国同様に日本アニメに規制がかかっているからで、ヒット作と言えるのはペンギンのポロロを主人公とした、1話5分の短編アニメ『ポンポン ポロロ』くらい。続々と人気作品が登場するという状況にはない。韓国コンテンツ振興院のキャラクター認知度調査でも、日本や米国のキャラクターが多く入っているようだ(「韓国キャラクター「ドゥリ」、日本の「キティ」に認知度1位を明け渡す」)。
ライバルにはなっていない?
このように海外に対するアウトソーシングでアジア諸国に技術が移転し、それらの国々がライバルとなることで、日本アニメが競争力を失っているという事実は現状ではないと言えるだろう。
次回記事では、なぜアジア諸国でなかなか人気のある自国製アニメを生み出せないでいるのかということを、米国アニメのアウトソーシングの歴史をひもときながら考察していく。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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