手づくりの「楽しさ」にこそマーケティングの原点がある:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
機能追求商品に心が響かない。デザイン商品にプレミアムを払う人も減った。実体を買わず仮想を買う時代だ。だが、手づくりは閉塞する市場の救世主になると思うのだ。
予想以上に大きい手づくり市場とその顧客たち
こうしてみると手づくりにもいろいろな業態がある。整理しよう。素材、キット、教室……どれが売れるのだろうか?
雑誌メディアと手づくりを合体させたフェリシモは500億円企業である。女子が群をなす貴和製作所は、売上非公開だが60億円はある模様。マスキングテープの「mt」をヒットさせたカモ井加工紙は、mtのみで最低数億円は売上げている。ハンズやユザワヤはいうに及ばず。市場は予想以上に大きい。
何しろ顧客はコアで、ヘビーユーザーで忠誠心が高い。特定の企業やサービスへの忠誠心というより、手づくりという「イズム」への忠誠心。火ダネはいつも点いている。
興味を持つ→キットを作る→教室に通う→オリジナルを作りだす→先生になる……という単価アップのサイクルも見える。自由な素材や「作りたい!」と思わせる提案や見本で、ボッと燃え上がる。ある意味ダイエット市場と似ている。
だが気になることもある。「手づくりは野望と真逆」なのである。手づくりは人をやさしくする。大それた欲望を抑制する働きがある。例えば「起業して一発儲けよう」よりも「コタツでチクチク、幸せだなあ!」という草食系になる。まあ今の時代、そのくらいがちょうどいいのかも。
手が楽しいと心も楽しい
手づくりの最大の魅力は「心の集中という満足」である。手づくり中に人生や仕事を考えだす。「今の仕事、あれでいいのかな……」「オレは何者なんだ……」という心の修養が真の効用である。
貴和製作所でこんな光景を見た。2階売場から階段を降りてきた70代後半と思しきオバアちゃん。目をキラキラさせて連れにいった。
「ここに来て、すっごく元気もらったわ」
手づくりは心を元気にする。心の動脈硬化を防ぐ。手づくりじゃないが、AKB48やグラドルが「握手を売る」のは正しい。ファンは写真集に払うわけじゃない。手が楽しいから払う。恋人と手を握りたいからおごるでしょう?
手はニーズやウォンツを頭よりよく知っている。手が楽しいことは心も楽しい。手を喜ばせるビジネスをやりましょう。
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