ボストン爆破テロ、誤報相次ぐ米メディアの裏舞台:伊吹太歩の世界の歩き方(1/3 ページ)
いつから米国は「誤報大国」になったのだろうか。4月15日、マサチューセッツ州ボストンで発生したマラソン・テロ事件のニュース報道のあり方に一石を投じたい。
著者プロフィール:伊吹太歩
世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材し、夕刊紙を中心に週刊誌や月刊誌などで活躍するライター。
米マサチューセッツ州ボストンで発生したボストンマラソン・テロ事件。ゴール地点の近くに置かれた爆弾が2発爆発し、3人の命が奪われた。発生は午後3時前で、そのニュースは瞬時に米国中に知られることとなった。
テロの容疑者は、26歳と19歳のカフカス地方出身のチェチェン人兄弟だった。親族などのコメントによれば、警察との銃撃戦で殺害された26歳の兄は元ボクサーで常にトラブルメーカーだった。銃撃戦を経て逃亡していたところを拘束された19歳の弟はレスリングの元スター選手で、兄に感化されて犯行に至ったのではないかとの見方が強まっている。現在、彼らの動機について捜査が続いている。
ヒートアップするメディアの“犯人探し”
テロ発生後すぐ、捜査当局とメディアで犯人探しが始まった。捜査当局はすぐに容疑者を突き止めた。というのも、兄弟の兄は、2011年に米連邦捜査局(FBI)から聴取を受けており、マラソン会場の監視カメラから容疑者特定は比較的容易だったとみられている。それでもFBIはテロから3日経って、容疑者兄弟の写真とビデオを公開。逃亡中の2人についての情報提供を呼びかけた。
その間、メディアの「犯人探し」もヒートアップした。そして拘束に至るまで、メディアが垂れ流す容疑者についての情報は、恐ろしいほど錯綜した。まったくもってこの手の事件での米大手メディアの報道は、最近、質の低下があまりにもひどい。
発生の翌日、メディアはこぞって、20歳のサウジアラビア国籍の男性が容疑者に浮上したと報じた。FOXニュースは、自身も負傷したこの男性から「火薬の匂いがした」とし、この男が「死人は?」と言ったと伝えた。CBSニュースは、この男性が現場から走り去ろうとしたところを捕らえられたと伝えた。
今となってみれば、このサウジアラビア人男性は爆弾による負傷者に過ぎなかった。FOXとCBSの報道は間違いで、偏見に満ちた犯人像の印象を広めただけだった。白人ならそんな扱いは受けなかっただろう。
他にもある。ニューヨークに拠点を置く、ニューヨーク・ポスト紙。同紙は一面に、リュックを背負った男と一緒にいる男の2人の写真とともに、「かばん男:FBIはこの2人を追っている」と大々的に掲載した。だがこの男性らは、まったく事件には関係なかった。
そのうちの1人であるモロッコ系学生(17)はメディアの取材に応じ、記事が掲載された日だけで、ネットで200件以上のメッセージを受け取ったと語った。この男性は、「恐ろしくて学校に行けない。仕事のある家族も恐れをなしている」と嘆いた。
そんな状況にも、誤報を出したニューヨーク・ポスト紙は開き直り、「写真の2人を容疑者だと特定しているわけではない」とコメント。後に、当局は写真とは別の2人を追っていると続報を出したが、とんでもない無責任な報道だと言わざるを得ない。
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