ボストン爆破テロ、誤報相次ぐ米メディアの裏舞台:伊吹太歩の世界の歩き方(2/3 ページ)
いつから米国は「誤報大国」になったのだろうか。4月15日、マサチューセッツ州ボストンで発生したマラソン・テロ事件のニュース報道のあり方に一石を投じたい。
CNNの看板記者がやらかした「犯人逮捕」報道
さらにひどかったのは、ニュース専門局のCNNだ。看板記者のジョン・キングが、テロ発生2日目に「犯人逮捕」という大誤報をとばした。現地からのリポートに登場したキングは、当局者からの情報として、容疑者が逮捕されたと語ったのだ。だがその情報は完全な間違いだった。
「逮捕」というだけの誤報だけなら、100歩譲って「誰にも迷惑をかけていないから」と許せなくもない(メディアとしては大問題だが)。FBIが逮捕の事実はないとコメントを発表したのは言うまでもない。
ただ問題はそれだけではなかった。キングは「捜査当局者から、容疑者は肌の色が濃い男性だと聞いた」と語ったのだ。つまり、非白人で、アラブ系または黒人系――今の米国に住む一般的な米国人なら、それは黒人よりもイスラム教徒を連想する。
そんな情報が信頼されるジャーナリストの口から出れば、市民は無視できない。前出の17歳の少年は、自分が疑われた理由は、「爆弾が入りそうなリュックを持っていたこと、そして肌の色が濃いこと」だと語っている。そして「学校から出たら車に乗った男性が電話をしながら自分を目で追っていた」という体験も話した。
結果的に、容疑者はチェチェン系だった。チェチェン人の肌は、白人のそれに近く、白い。キングの情報は、危険なほど間違っていただけでなく、人種差別的だと批判されても仕方のないレベルだった。
人種的な憎悪の醸成に、メディアが大きな役割を果たしていることは疑いようのない事実である。テロ発生直後から、あるリビア人女性のツイートが話題になった。彼女は、「どうか(犯人が)イスラム教徒ではありませんように」とつぶやき、イスラム教徒たちの真実の声を代弁した。このツイートは大きく報じられたが、まさか彼女は米メディアが誤報でイスラム教徒の懸念を押しつぶすなんて想像もしなかっただろう。こうした非常に「センシティブ」な情報も、逮捕したかどうかという情報の確度と同様に慎重に扱われるべきだ。
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