富士山行きの鉄道は実現するのか――過去の歴史は「観光VS. 自然」でせめぎあい:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
世界文化遺産登録が確定的となった富士山で、登山鉄道の動きがある。富士登山鉄道の構想は1910年から始まり、現在まで何度か立ち上がっては消えた。そこには自然保護運動との対立の歴史がある。
自然破壊の鉄道から自然保護の鉄道へ
一方で、大月から富士吉田までの馬車鉄道は統合され、路線を再整備して富士山麓電気鉄道となっていた。この会社は1960年に富士急行と社名変更する。そこには当然、いままでの富士登山鉄道の機運が含まれていたことだろう。
富士急行は1960年代に地下ケーブルカーを計画した。しかし、自然保護を考慮し、自ら取り下げている(参照リンク)。富士急行は観光開発の企業であるけれど、富士山自然保護に取り組む会社でもある。全社員清掃登山運動や新入社員植林活動を実施し、社有地の木を伐採するにも社長決裁が必要だという。富士山の自然こそが富士山観光の源であり、自然保護こそ自社の利益と合致すると考えているようだ。
富士山に鉄道を通そうという趣旨が、観光開発ではなく、その対となす自然保護に変わっている。そのきっかけは皮肉にも富士スバルラインだった。五合目まで、誰もがマイカーやバスで行ける。いままでの富士山信仰や登山家だけではなく、レジャーとしての登山が始まった。その結果、富士山麓では2つの自然破壊が加速した。1つは自動車の排気ガスによる森林破壊。特に駐車場待ちの4時間以上の渋滞は、アイドリングによる排気ガスを生み出す。もう1つはレジャー登山者のゴミだ。いままで世界遺産登録が見送られてきた理由の1つが「富士山はゴミだらけ」という実態であった。また、あまり大きく取り沙汰されないけれど、重要な指摘として、植物の不法採取問題や遭難者問題がある。
いま新たに湧き上がる富士登山鉄道構想は、いままでの鉄道計画と決定的に異なる部分がある。独自のルートではなく、富士スバルラインを鉄道に転換する。そこには、排気ガスを排除しようという目的と、レジャー登山の門番という目的がある。特に後者は、列車の本数調整によって、富士登山者の総数を抑制できる。信仰や登山家など、麓から登山する者はマナーもよく規制する必要はない。しかし、お手軽に五合目から始める登山者を制限できる。
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