富士山行きの鉄道は実現するのか――過去の歴史は「観光VS. 自然」でせめぎあい:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
世界文化遺産登録が確定的となった富士山で、登山鉄道の動きがある。富士登山鉄道の構想は1910年から始まり、現在まで何度か立ち上がっては消えた。そこには自然保護運動との対立の歴史がある。
クルマだけではなく、ヒトも抑制できる登山鉄道
入山規制については静岡県が「夏山シーズンのみ」と主張し、山梨県は「期間規制は行き過ぎ」の立場をとる。そこで入山料による規制案が浮上している。世界遺産登録によって登山客は急増する見込みだ。少なくとも、現在の入山者数を制限するためには、1人当たり7000円の入山料が必要という試算もある。しかし「お金が必要だからください」ではなく「登山意欲を削ぎ、ハードルを上げるためにお金をとる」という考え方はお金欲しさの欺瞞(ぎまん)と思われかねない。富士山は誰のものか、という議論が始まりそうだ。
そこで、レジャー登山の入口となる富士スバルラインと富士山スカイラインを鉄道に転換する。もちろん乗車は予約制。全列車指定席として、物理的なゲートキーパーとして機能させるのだ。繁忙期と閑散期で運賃を調整すれば、お金による「ハードル」の調整もできる。だから、富士登山鉄道は、現在の来場者や、将来急増する来場者をすべて賄うほどの規模にする必要はない。
環境保護を排気ガス問題だけで見れば、鉄道にしなくても、低公害バス、電気自動車に転換すればいいという意見もある。しかし、道路のままでは従来の入山者数をそのまま転換できてしまう。その輸送量の大きさが問題だ。はっきりいうと、ヒトこそが公害源であり、道路のままではヒトを減らせない。
入山者を減らす鉄道案には、観光業者の反発もあるだろう。しかし、それを見越しての「冬期間営業」である。富士山五合目に行く人は、すべて頂上をめざす人ではない。レジャー登山よりもっとカジュアルな「五合目観光客」もいる。山下清画伯だって「富士山は遠くから見るときれいだけど、登ってみると岩がゴツゴツしているだけなんだな」と言っていたそうだ。登らなくても富士山は楽しめる。私も鉄道が開通したら行ってみたいけど、「頂上まで登ろう」と誘われると、さすがに尻込みしてしまう。「五合目観光客」には、登山シーズンではなく、空気の澄んだ冬の時期に富士山を見上げに来てもらえばいい。年間観光需要の平均化につながる。
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