トンネルだらけの沖縄新鉄道案は魅力に乏しい:杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)
「沖縄本島鉄道計画」が実現に向けて動き出した。沖縄県が実現性を高めるべく検討した結果を発表した。沖縄県民と世界の鉄道ファンが待望する鉄道だ。しかし、内容を見ると、目論見どおりの観光輸送は期待できない。
沖縄県民待望の鉄道計画
現在、沖縄県には沖縄都市モノレール、愛称「ゆいれーる」が走っている。那覇空港から都心を経由して首里までの路線だ。「ゆいレール」以前の沖縄は完全なクルマ社会であった。しかし、過去には沖縄にも鉄道があった。沖縄の鉄道ブームは1914年(大正3年)だ。那覇と首里を結ぶ沖縄電気軌道、与那原(よなばる)を起点とする沖縄人車軌道、沖縄県営鉄道が開業している。1919年(大正8年)には那覇市で糸満馬車軌道が開業し、翌年に糸満に到達した。
このうち、沖縄電気軌道と糸満馬車軌道はバスに客を奪われる形で昭和初期に廃止された。一方、沖縄県営鉄道は那覇と与那原、嘉手納、糸満を結ぶ3路線を運行し、沖縄人車軌道は沖縄軌道となって沖縄市泡瀬を結んだ。しかし、これらの路線は沖縄戦で被災したまま廃止となっている。こうした経緯から、沖縄の人々には「鉄道がない」ではなく、「鉄道を奪われた」という意識が少なからずあるようだ。
本土復帰以前の米国統治下で、沖縄はクルマ社会が当たり前となっていた。しかし道路整備は遅れ、都市周辺部では渋滞が問題となっていた。都市部の交通渋滞を緩和するため、2003年にゆいレールが開業した。2005年に沖縄の石油業界関係者が「鉄道整備が進むまでは」と、国が実施している復興特別措置のガソリン税減税の継続を求めている。ここにも沖縄県民の都市間を結ぶ鉄道への期待が見える。
沖縄県はクルマ依存社会による慢性的な交通渋滞、環境負荷の増大などの問題を抱えている。沖縄のバス会社のWebサイトを見ても渋滞問題を挙げて「マイカーからバスに」と訴えている。鉄道や他の交通機関を組み合わせた交通網の整備が必要だ。
沖縄県の報告書の序盤に「日本の都市のうち、札幌以外の政令指定都市は新幹線が通っている。明治初頭の主要都市であっても現在新幹線が通っていない都市は、政令指定都市とはなっていない」と書かれており、 鉄道が県土の発展に大きな影響力を持つと期待している。
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