番組を動画サイトにアップ、どう思う? テレビが面白い理由:田原総一朗VS. 水道橋博士のテレビと著作権(後編)(7/7 ページ)
ソーシャルメディアが普及したことでネット上にテレビ番組についての感想や批評を記す人たちが出てきた。テレビ番組の引用はどうあるべきなのか。田原総一朗さんと水道橋博士が語り合った。
しかしながら現実には、テレビ番組の体を取りながら、公(おおやけ)にすべきコンテンツも存在する。例えば国会中継や政見放送は、パブリックなコンテンツであり、著作権によって保護されるべきものとは言えない。さらには災害時における緊急報道は、できるだけ多くの手段を使って伝播されるべきものであり、著作権法よりも人命を優先すべき人道的な理由が存在する。
実際に昨年12月7日に発生した三陸沖M7.3の地震では、NHKは暗号化を外して緊急報道を行なった。幸いにして大きな被害はなかったが、もし仮にこれが3.11クラスの大災害であった場合、多くの人はこの報道をYouTubeなどへアップすることを考えるだろう。このとき放送が暗号化されていなければ、この番組は暗号化を解く必要がなくなり、“アクセスコントロールを回避しての複製の禁止”に引っかからないことになる。また技術的にも、番組を取り出すことが容易になる。
それでもまだネットにアップすることは、公衆送信権侵害の可能性は残るが、NHKがその権利を行使しなければよい。このような利用の可能性を明確にするために、緊急報道にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスやNHKクリエイティブ・ライブラリーのライセンスなど、他人による複製や公衆送信を自由に認めるライセンスを表示するなどの方法も考えられる。
また3.11の教訓として、テレビ放送によってもたらされる情報は、常に公平さや正確さが担保されるわけではないということを、我々は学んだ。有識者の意見に対して、全く逆の見解が存在する事もある。
テレビによって報道された情報や論説に対し、その真偽を検証を行なったり、さらに論考を深めるような行為は、インターネットを使って行なうことが可能だ。しかしそれには、報道された番組を資料として、正確に引用する必要がある。
引用は、論説や批評などを行なう際に特定の条件を満たせば、著作権者の許諾なく利用する事ができるという、著作権法で認められた正当な利用方法である。これまで書籍や論文のような文字情報分野では広く活用されてきたが、テレビ放送に対しては利用されてこなかった。
これまでもネットには、テレビの情報を元にした評論は多く存在しているが、多くは発言の書き起こしをベースにしている。だがこれでは、どういう文脈で語られた話なのか、どういう表情や態度で語られたのかといったビジュアル的な情報を得ることができないため、その評論の正当性が評価できないというジレンマがある。
具体的な方法論はさらなる議論の余地があるが、テレビからの引用を活用した論説や批評は、情報の価値を正しく判断し、論ずるための手段であり、社会の発展につながる多くのメリットがある。高度な情報社会に向けて、テレビ番組の扱い方も、時代に合わせた変化が必要だろうと考える。
プロフィール
小寺信良
一般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事。長年テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年に独立。以降映像機器関連の著作業に転業し、現在に至る。2007年にジャーナリストの津田大介とともに任意団体「インターネット先進ユーザーの会」を発足、2009年に法人化した際に「インターネットユーザー協会」に改称。インターネットにまつわる法規制に対して、ユーザーの利益を損なうことがないよう意見表明を行なっている。
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