鉄道紀行のカリスマが夢見た「富士登山鉄道」とは:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
富士山の世界文化遺産登録が決定した。「富士登山鉄道」はいまだ構想段階で具体案はこれから……といった感じだ。しかし、いまから約20年前に「富士山鉄道・五合目線」を発表した作家がいた。鉄道紀行作家、宮脇俊三である。
排ガスよりも排除すべきもの
宮脇氏は富士スバルラインをタクシーに乗り、あたかも列車に乗っているような描写をする。そこが紀行作家の真骨頂である。ただし、この項で興味深いところは、植物学者を取材し、道路を鉄道に転換したメリットについて取材していることだ。読者はここで「富士山にとって排ガスはあまり問題ではない」という指摘に驚くだろう。富士山は独立峰であり、風が通るから排気ガスは吹き抜けてしまうという。しかし、マイカー利用者が高山植物を根こそぎ盗んでいくほうが問題だと指摘している。また、宮脇氏はタクシー運転手の証言として、「富士スバルラインが風の通り道となってしまい、風害で樹木を枯らせ、地下水の流れを変えてしまった」と著している。
宮脇氏が取材した1990年のデータによると、8月の通行車両数はバス乗用車合わせて20万6120万台。予測した人数は80万人超。お盆休みのピークは1日5万人が通行する勘定になるという。5万人を定員800人の列車で輸送するとすると、1日に62.5本を設定する必要がある。運行時間は6時から20時までの14時間とするなら、1時間あたり4.46本。12分間隔なら5本の運行ができるから、なんとか対応できそうだ。ただし定員800人で4両はキツイ。10両ならJR特急規格程度の座席数を設定できる。しかし、10両対応の鉄道設備は場所をとる。スバルラインの用地からはみ出すところも増えるだろう。富士急行の現行区間も大幅な改修が必要だ。
五合目行き時刻表。6時台から12分間隔で運行するピーク時を示す。すれ違いは五合目行きを優先させた。ハイランド駅から五合目駅までの所要時間は61分。富士スバルラインが空いている時は、クルマで約40分とのこと。各駅停車で21分増しは仕方ないところだろう
宮脇案をもとに列車ダイヤを作ってみた(列車ダイヤ作図ソフト「Oudia」にて作成)。実際のダイヤ作成には曲線通過速度や勾配などの要素も加わるので、ざっくりと参考まで。五合目行き、ハイランド行きとも表定速度を30キロで想定しているが、ハイランド行きは下り坂なので、少し早くなるはず。インターチェンジ駅と富士スバルランド駅の複線がありがたい。必要な列車数は最低でも16本。富士急ハイランドにすべて格納できないので、1編成は五合目駅で夜明かしさせる。おそらく、複線区間から車庫へ分岐する線路を作ることになるはずで、その場合、一部の列車はインターチェンジ駅始発とし、付近に作る大型駐車場からの利用客専用となるだろう
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