壮大な“実験国家”米国から何を学べばいいのか:小飼弾×松井博、どこへ行く? 帝国化していく企業(5)(3/4 ページ)
巨大化する企業と弱体化する国家。特に先進国では福祉が国家予算を圧迫し、どこも火のクルマだ。そんな中、本当に国がやるべき仕事とは何なのか。
小さくて強い政府がいい
小飼:米国って、全有権者の2%が刑務所暮らしで、もうすぐ300万人に届きそうです。
松井:それがすごく予算を食っているんです。民営化すると、刑務所にいっぱい人がいたほうがもうかるじゃないですか。
「おらが町に刑務所を誘致しよう」という動きがあります。民営化すると、どうにかして犯罪者を解放しないようにしたり、ささいな罪で捕まえたりするようなシステムになる。そのほうがもうかるということになると、そうなるようにロビー活動を始めるわけです。
米国ではささいな罪が多いのですが、刑務所に1回行くと就職することが難しく、しばらくして再犯するケースが目立っているんですよ。
松井:米国は壮大な“実験国家”ですよね。あれもこれも民営化してみようって……頭おかしくって素敵です(苦笑)。
小飼:逆に非民営化するときも、かなり激しくやる。例えば、予防接種は民間がやっていたのですが、日本が国でやっているのを見て、“これがいい”ということになって非民営化に。そのように考えると、やはり小さくて強い政府がほしいんですよね。でかくて弱いのは最悪です。
かつて「これは国の仕事だ」と思われていた中で、民間がうまくやったのは交通の世界です。政府がやると赤字に陥いるケースが多かったのですが、フェデックスもクロネコヤマトなどはうまくやっている。その一方、電力は民営化にしましたが、「なんでカリフォルニアで停電になるんだ」ということになっている。
松井:次から次へと民営化していく米国は、参考になりますよね。国に属しているべき仕事かどうかを洗い出してくれるので。
小飼:たくさんの分野で民営化に踏み切っていますが、米国の歴史を振り返ると、連邦政府の権限が増している。
松井:確かに。
小飼:あと国の役割で重要なのは、再配分の配給人でしょうね。なのでマルサ(税務監査)も必要になる。
松井:結局、国家の役割は分配しかないんでしょうか。
小飼:その観点から言っても、国家が地方自治体化しているんです。
松井:結局はどの企業の声が大きくなるかで、戦争が起きたり起きなかったりしているのではないでしょうか。米国の大統領は選挙で選ばれていますが、意味あるのかなあと。
小飼:ものすごくゆっくりですが、あるべき方向に進んでいると思いますがね。
関連記事
- アップルやマクドナルドは、本当に“悪の帝国”なのか?
弱体化する国家を尻目に、国境を気にせず自らの利益を追い求める“企業帝国”たち。世界が一握りのお金持ちと圧倒的多数の単純労働者に分かれていくなかで、人々が幸せになる方法はあるのか。小飼弾さんと松井博さんが語り合った。 - なぜ給料が二極化するのか? 年収200万円と800万円の人
景気低迷の影響を受け、給料は下がり続けている――。そんなビジネスパーソンも少なくないだろう。では、今後10年間はどうなのか。リクルートで働き、中学校の校長を務めた藤原和博さんに「10年後の給料」を予測してもらった。 - 会社が大きくなって、手にしたモノ、失ったモノ
企業が巨大化している――。背景には「グローバル化に対応するため」といった狙いがあるのだが、こうした流れは私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか。ジャーナリストの佐々木俊尚氏とアップルで働いてきた松井博氏が語り合った。 - 何が問題なのか? メディアにころがる常識
メディアが構造的な問題に苦しんでいる――。購読部数の減少、広告収入の低下などさまざまな課題が押し寄せているが、解決の糸口が見えてこない。こうした問題について、ジャーナリストの津田大介氏と社会学者の鈴木謙介氏が語り合った。 - どうすればいいのか? 年収300万円時代がやって来る
景気低迷などの影響を受け、会社員の給料が下がり続けている。低年収時代に会社員はどのように生きていけばいいのだろうか。この問題について、人事コンサルタントの城繁幸さんとフリーライターの赤木智弘さんが語り合った。 - 大企業の正社員、3割は会社を辞める
東日本大震災の発生以降、「今後どのように働いていけばいいのか」と考えるビジネスパーソンも多いのでは。ポスト大震災の働き方について、人気ブロガーのちきりんさんと人事コンサルタントの城繁幸さんが語り合った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.