弘南鉄道大鰐線は存続できるのか――地方に存在する事情:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
青森県の弘南鉄道の株主総会で、社長が「2017年3月までに大鰐線を廃止する方向で考えている」と語った。経営者として、赤字部門はすぐにでも廃止したいはず。それを3年後という期限で語ったが、そこに民間企業の苦渋が見え隠れする。
補助金をいただくのは心苦しい
弘南鉄道の路線廃止はこれが初めてではない。1998年に黒石線を廃止している。黒石線は奥羽本線の川部駅と黒石駅を結ぶ約6キロメートルの非電化路線で、元は国鉄の路線だった。国鉄の合理化で黒石線が廃止対象になったため、1984年に弘南鉄道が引き受けた。しかし乗客の減少傾向は止まらず、14年後に廃止。弘南バスが引き継いでいる。弘南バスは弘南鉄道のバス部門を分離した会社で、現在は完全な別会社となっている。
この苦い経験のほかに、2012年に廃止された十和田観光電鉄の鉄道部門廃止騒動も念頭にあったのではないか。十和田観光電鉄は2011年3月の震災後、地元自治体に金銭的支援を要請したものの拒否された。そして同年10月に翌年3月の廃止を決める。ただしこれは半年しか余裕がなく、手続き日程上は間に合わない。
すると、十和田観光電鉄は、いったん手続き上の日程通りに2012年10月付の廃止届を出す一方で、2012年4月以降の休止届を提出する。終点の十和田市駅が賃借物件であり、駅ビルの再開発で取り壊しになるという理由だった。やむを得ないとはいえ「届出から1年後廃止」というルールを「休止届」という抜け道を使ってすり抜けてしまった。これは今後の鉄道廃止論議に課題を残した。
弘南鉄道大鰐線の「3年後に廃止したい」の理由は、会社が受け止められる赤字の累積と、電車の買い替え期限、学生への配慮を考慮した結果だろう。弘前市長、大鰐町長も「突然すぎる」と怒っておられるようだが、鉄道路線の廃止表明は、どんな形であれ突然である。しかも予兆はあった。2010年に弘南鉄道鉄道活性化支援協議会で同社長が「これ以上補助金をいただくのは心苦しい」と心境を述べたようだし、2012年にも存続へ向けて沿線町会長による意見交換会が実施されている。そこで決定弾となるアイデアが出なかった。それから1年で改善が見られなかったわけだ。
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