デジタルマーケッターよ、自社がどうやって稼いでいるか知っているか?:ネット広告の先駆者に聞く(2/5 ページ)
マーケティングは長嶋監督の「カンピュータ」から野村監督の「ID野球」に変わるべきだ。日本のインターネット広告業界を常に一歩早く歩んできた横山隆治氏に、デジタルマーケッターのあるべき姿を聞いた。
マーケティングは「長嶋野球」から「野村ID野球」へ
横山: インターネット広告の世界に入る前に、15年くらいマス広告を手掛けていました。その経験からいえば、インターネット上だけのダイレクトマーケティングをやりたいと思っていたことはないんですよ。
マーケティングの領域というのは、マス、リアル(店頭)、デジタルという3領域に分けられます。その中の1つであるインターネットをうまく使って、そこから得られるデータを基に、いかにマスやリアルといった全体を最適化していけるかというのがデジタルマーケティングだと思います。
以前は「ネットマーケティング」と呼ばれていましたが、ネットはネット、マスはマス、リアルはリアルというように領域がオーバーラップしていませんでした。デジタルマーケティングというのは、それらが分離していない新しいマーケティングの大きな海のど真ん中に存在する核となる部分なんです。
岡田: デジタル領域から得られる「データ」が、マスやリアルのマーケティングも駆動するといったイメージでしょうか?
横山: デジタル領域では中間指標というか、さまざまなファインディング(発見、気付き)が得られます。かつてのマスマーケティングは、データが乏しい中でカンに頼っていた「長嶋野球」だったんですよね。「こう、ダーッといって、ガンッ!」みたいな世界。長嶋茂雄監督と松井秀喜のような分かる人同士にはあうんの呼吸で通じ合えるけど、長嶋一茂とはダメだったみたいな(笑)。
そういうカンピュータ的なアレは、結果として間違っていたわけではないけれども、そろそろ「野村ID野球」にしたらどうかな、と。カンに頼っていたところをデータで見える化したら、いろいろな人にも理解できて、一緒にやっていけるようになります。
岡田: 非常に分かりやすい例えですね(笑)。少し具体的な事例を教えてもらえますか?
横山: 例えば「テレビCMをドーンと打つと、店頭でモノが売れます」というのは、経験上、効いているようだけど、「どの指標がどうなったから」という部分はブラックボックスになっていて非常に精度を欠いていました。
テレビCMは、GRP(Gross Rating Point)といって投下量を世帯視聴率を積み上げた数字で買うんです。%という割合を足し算するという変な考え方ですが、1500GRPといえば世帯視聴率1500%分のテレビスポットを打つということです。
では、この12年くらいの個人視聴率の変化をデータとして見るとどうなるでしょうか。M1と呼んでいる若い男性の個人視聴率は70%くらいに下がっています。さらに、この年代の人口は8掛けくらいに減少しているのですから、情報の到達人数でいえば単純計算で56%になっている。若い男性に訴求したいコミュニケーションメッセージをテレビCMを起点に考えるのはハテナだよね、ということがデータからはっきり分かります。
これは、テレビCM一般の影響力が落ちているということではありません。高年齢層の人口は増えていて個人視聴率も増えている。つまり、人口動態の高年齢化よりもはるかに早いペースでテレビ視聴者の高年齢化が進んだと見るべきで、だからテレビCMが「グルコサミン」や「コンドロイチン」ばかりになるのは当たり前なんです。
今後もネット広告の動画化は進むでしょう。そのとき、テレビ広告を大量に投下する方がコスト的に安上がりに見えても、ターゲティングされたインターネット動画広告と比べたら、顧客1人当たりの広告認知やブランド認知、購入意向獲得にかかったコストはどうなのっていう計算ができるようになります。データで見えるようになったことは昔よりも増えましたよね、というのが私の持論です。
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