デジタルマーケッターよ、自社がどうやって稼いでいるか知っているか?:ネット広告の先駆者に聞く(3/5 ページ)
マーケティングは長嶋監督の「カンピュータ」から野村監督の「ID野球」に変わるべきだ。日本のインターネット広告業界を常に一歩早く歩んできた横山隆治氏に、デジタルマーケッターのあるべき姿を聞いた。
マーケティングの入り口と出口がつながっていない
岡田: データを基にマーケティング施策を動かすというのは最近のトレンドですが、もともとインターネット広告というのは結果が数値化されて、既存の広告よりも効果が分かるようになったという点で評価されていたと思います。例えば、Business Media 誠に出稿されているバナー広告にしても、インプレッションがいくらで、クリックスルーレートがどうで、といった具合です。
横山: 確かにそれは非常に大きな衝撃をもって受け入れられました。でも、冷静に考えてみればその数値というのは0.1%とか0.01%とかですから、そこだけ見てても詮(せん)ない話になります。今のデジタルマーケティングというのは、認知して、検討して、検索してという関心の顕在化部分にフォーカスし過ぎています。顧客の行動を受けてそれにカウンターで刈り取っていくという「プル」な部分は、やり過ぎなくらいできているわけです。
ところが、例えばテレビCMのような認知をさせるとか、何となくいいイメージを与えるというような「プッシュ」な部分との間に大きな隔たりができてしまっています。「続きはWebで」と15秒のテレビCMで流すだけのことが本格的なマーケティング活動とはいえませんよ。商品カテゴリーにもよりますけど、顧客の関心をもっと自分ごと化していくような、プッシュとプルをつなぐ何らかの施策は必要でしょうね。
岡田: マーケティングの入り口のところと出口のところがつながっているようで、つながっていないということですか? では、どうやってそれをつなぐのでしょう?
横山: その1つはリターゲティング広告の拡張だといわれています。関心が顕在化してブランドのWebサイトを訪問した人のCookieを基に、似たような人をより分けていって情報をプッシュすると、ターゲティングせずにやるよりははるかに効率は良くなります。
でも、拡張のロジックというものは、扱う商品ごとに異なってくるはずなんです。だから企業は自社が持っているデータを集約して、分析するためのプライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を持ち始めています。そして、自分たちが持っているデータだけでは足りないので、第三者が持っているデータと組み合わせて精度の高いロジックを作り上げていくのです。
こうすることで、プッシュとプルがきちんとつながり、顧客の認知から行動までの一連のプロセスを誘導していくことができます。これがまさにデジタルマーケティングであり、今日のマーケティングが抱えている課題でもあります。
岡田: それができる人がデジタルマーケッターということでしょうか。
横山: そうですね。デジタルから分かることを使って、マス、リアルともつながる一連のプロセスをちゃんとマネジメントできるような人でしょうね。デジタル上にはさまざまな中間指標があって、その中のいくつかは売上との相関関係を持つものがあるはずです。このKPIを見つけられれば、それはしめたものですよ。デジタルマーケッターには、その発見力が求められます。
残念ながら日本でマーケティングというと、広告や販促といった狭いエリアを指すことが多いのです。デジタルマーケティングというのは、単にネットやデジタルの世界を最適化するような試みに収まらず、例えば商品開発から生産、流通、労務などまで全部をひっくるめて最適化できる可能性を秘めています。広告の最適化なんて企業の損益計算に与えるインパクトを考えれば小さいものですよ。
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