ヘンテコ英語で逆効果!? 企業スローガンはリスクがいっぱい:ビジネス英語の歩き方(1/3 ページ)
その企業の事業内容を分かりやすく、そして簡潔に表現するスローガン。日本の多くの企業では英語のスローガンが使われていますが、外国人の視点から読んでみるとどういう印象を抱くのでしょうか?
「ビジネス英語の歩き方」とは?
英語番組や英会話スクール、ネットを通じた英会話学習など、現代日本には英語を学ぶ手段が数多く存在しています。しかし、単語や文法などは覚えられても、その背景にある文化的側面については、なかなか理解しにくいもの。この連載では、米国で11年間、英語出版に携わり、NYタイムズベストセラーも何冊か生み出し、現在は外資系コンサルティング会社で日本企業のグローバル化を推進する筆者が、ビジネスシーンに関わる英語のニュアンスについて解説していきます。
たいていの大企業が、英語のスローガン(company slogan)を掲げています。テレビCMの最後に流れるアレです。有名どころでいえば、トヨタが2011年まで使っていた「Drive your dreams.」、パナソニックが2013年3月まで使っていた「ideas for life」など。いずれも簡潔で、それぞれの会社がやっている事業をソフトにアピールするメッセージ性をもっています。
Drive your dreams.には、クルマをドライブするという意味と、夢を加速するという両方の意味が掛け合わされています。「あなたの夢の実現を加速させましょう」というわけで、クルマメーカーとしてはぴったりです。
パナソニックは、「生活のための数々のアイデア」を提供しますということで「アイデアズ フォー ライフ」。非常にいい音、いいリズムでした。ideas for lifeと、表記が小文字になっていることにも注目したいところです。一般的に小文字は日本語でいえばひらがなに近い、柔らかな感じがあります。IDEAS FOR LIFEと大文字だけで書くと、同じ「アイデアズ フォー ライフ」なのに、全然違った印象になります。
一方でトヨタは、若者のクルマ離れをくい止めようという意図をもった「FUN TO DRIVE, AGAIN.」という大文字だけのスローガンに変えました。以前のものと比べてだいぶ違った印象を与えます。最後にピリオドを置くのも、Drive your dreams.という文章から「運転する楽しみを、もう一度」というフレーズに変わっているだけに、少し違和感があります。
小文字の持つ柔らかさ
大文字には肩肘張った感じがあり、小文字には力の抜けた、自然体のイメージがあります。英語ネイティブの中でも若い世代には、メールなどで自分の名前をすべて小文字で書くことを好む人もたくさんいます。そのほうが柔らかい感じになるからです。
大文字のことを英語ではCapital letterとか、Uppercaseといいます。Capitalは、「主要な」という意味。首都のことをCapitalというのと同じニュアンスです。キャピタルレターという言い方には大きくて目立つ文字という感じが込められています。
もうひとつのUppercaseという表現は、グーテンベルク以来、長年使われてきた活字のケース(箱)の置き場所に由来します。印刷所の習慣で大文字の活字ケースを上段に置いていたのです。もともとはupper caseと2ワードに分かれていましたが、大文字を意味するときには1ワードとして書かれるようになりました。
一方、小文字をlowercaseというのは、小文字用の箱を下の段に置いていたから。使用頻度を考えれば小文字の方がずっと多いわけで、植字工がすぐ手にすることができるところに置くのは合理的です。Wikipedia上で伝統的な植字工の職場の写真を見られます(参照リンク)。
パナソニックの企業スローガンが小文字だけで表現されていた背景には、そういう活字文化の歴史があるわけで、世界中のパナソニックユーザーに非常に柔らかいイメージを植え付けていたはずです。この感覚は、コピーライターでもつかみにくいものだと思いますが、伝え聞くところによると、同社の米国法人の米国人からの提案によるそうなので、むべなるかなという感じがします。
マクドナルドの「i'm lovin' it」にも同じような響き、柔らかさがあります。小難しい言い方をすれば、主語のIを小文字にするというのは、もちろん常識に反しているわけで、そこにこの会社のしぶとさとマーケティングの強さを感じます。
大文字、小文字の問題は、前々回取り上げた冠詞(the や a)と共通する部分があって、ちょっとしたきっかけでその使い分けに慣れることができます(参考記事)。
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