灼熱の甲子園に似合うのは「完投の美学」? それとも「球数制限」?: 臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(1/3 ページ)
必死に白球を追う高校球児の姿は素晴らしい。だが、気温35度に迫るような炎天下、1試合150球近くの「投げ込み」は野球人としてのキャリアにどう影響するのだろうか?
著者プロフィール:臼北信行
日本のプロ野球や米メジャーリーグを中心としたスポーツ界の裏ネタ取材を得意とするライター。WBCや五輪、サッカーW杯など数々の国際大会での取材経験も豊富。
球児たちの熱い戦いがクライマックスを迎えた。2013年8月22日は第95回全国高等学校野球選手権大会の決勝戦。ここまで「夏の甲子園」を欠かさずチェックしていた人は、きっと多いはずだ。
しかし、海の向こうからは高校野球に対する疑問の声が続々と寄せられている。例えば、1試合でおよそ150球を投げ、しかも過密な日程で連投をするスタイルは、野球人としてのキャリアに影響を及ぼすのではないか。また、高等学校野球連盟(高野連)は熱中症にもなりそうな「暑過ぎる日本の夏」のことを考えていないといった声だ。この状況を松井秀喜氏ら元高校球児のメジャーリーグ経験者も懸念している。
春は5試合772球、夏は2試合320球――済美の剛腕、安楽の場合
今夏も多くの注目選手たちがグラウンドで激闘を繰り広げたが、その中で最も注目を集めたのは、やはり済美(愛媛)の剛腕・安楽智大投手だろう。今春の第85回記念選抜高等学校野球大会(センバツ)でチームを準優勝に導いた2年生エースだ。
今大会、初戦(8月14日)は三重(三重)に苦戦を強いられ、9対7で辛くも逃げ切った。7失点はいただけなかったが、それでも初回に甲子園大会最速タイとなる155キロをマーク。しかし……。同17日の2回戦では花巻東(岩手)を相手に延長10回の死闘の末、敗れ去った。同日の最速152キロで14三振を奪ったが、11安打を浴びて7失点。10回に自らのバットで3ランを放って1点差にまで詰め寄ったものの2試合連続となる7失点は、やはり重かった。
「大会直前に発熱でダウンしてしまったことが、安楽のパフォーマンスを大きく下げた。とはいえ、そんな最悪のコンディションの中でも、あれだけの球数を投げることができたのだから、やっぱり彼はピカイチの逸材でしょう。来年のドラフトが待ち遠しいです」(在京プロ球団のスカウト)
初戦で137球を投げ、2回戦でも183球。確かに安楽の肩や肘、そしてスタミナはとても高校2年生とは思えないぐらい驚異的なレベルを誇っている。他のプロ球団のスカウト達も「イニングを重ねても、まったく球威が落ちない。いや、それどころか逆に試合の終盤になって球威が増すケースもある」と舌を巻く。
準優勝に終わった今春の選抜高等学校野球選手権大会(センバツ)でも安楽は登板5試合計で772球を投げた。しかも、このセンバツでは準決勝までの4試合で完投。プロの先発投手ですら1試合で100球が降板のメドとされている時代において1試合平均で154球を投じていたのだから、16歳右腕のポテンシャルにプロ球団が魅力を感じるのは当然であろう。
それは日本だけの話ではない。米メジャーリーグでも同じだ。「トモヒロ・アンラク」の名前は、すでに海の向こうでも知れ渡っており「16歳の投手では世界でもトップレベルの1人」「ダルビッシュ(レンジャーズ)以来の逸材」などと評されている。米国の人気スポーツ雑誌『ESPNマガジン』が7月22日号で10ページに渡って安楽の特集記事を掲載。他にも米スポーツ専門局「FOXスポーツ」も安楽を特集番組の企画として取り上げるなど、米メディアからの注目度も高まっている。
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